アフターコロナの都市と住まい<br>―コロナ禍で都心居住人気は衰える?―大阪経済法科大学経済学部教授 米山秀隆
大阪経済法科大学経済学部教授 米山秀隆

テレワーク普及と分散化の流れ


 新型コロナウイルスの蔓延は、感染防止のため人々が集まること、移動することの自由を制限し、住まいや都市のあり方を変えつつある。内閣府の調査によれば、テレワークを全国で34.6%(東京都区部55.5%、地方圏26.0%)が経験し、通勤時間は東京都区部で56.0%の人が減少し、うち72.7%がその減少を保ちたいと回答した。
 常時出勤の必要がなくなれば、通勤の便を第一に考えて住まいを選ぶ必要性は乏しくなり、また、雇う側も全員が出勤する前提でオフィススペースを確保しておく必要はなくなる。実際、IT系などの企業ではオフィススペースを削減したり全廃した例もある。一方、働く側では、テレワークでどこにいても働けることから、通勤の利便性を考えて確保した住まいを引き払い、郊外や地方、リゾート地などに転居する例も出ている。
むろんこうした事例はまだごく一部に過ぎず、現時点では、今後、一般化するとまでは言い切れない。しかしこうした動きは、近代化の過程で東京を初めとする大都市への人口集中で経済の効率性を高めてきた流れに、一石を投じるものとなっている。大都市に集中することで確かに効率性は高まったが、居住環境が犠牲になることは少なくなかった。手頃な値段で広い住まいを確保しようとすると、郊外から長い時間をかけて通勤せざるを得なかった。
 しかし、テレワークによって仕事をする場所の制約がなくなれば、もはやこうした職住分離型の都市構造は必然ではなくなる。近代化の過程で進んだ職住分離は、生活と仕事が自らの住まいで完結する職住一体の形に変わっていくことになる。

逆に都心居住志向が強まる流れも


 こうした流れがある一方で逆の動きもある。通勤が不可欠なケースでは、通勤途上での感染の機会を減らすため、職場近くへの居住を奨励・支援したり、自転車通勤や自動車通勤を認めたりする例もある。これは、生活する場と働く場が空間的に隔絶しすぎている状況を改善したり、住まいと職場をよりダイレクトに結びつくようにしたりすることで、職住が近接した状況にしようとしている例である。近年は、タワーマンションや戸建ての供給増加で、都心部で職住近接を実現する都心居住の人気が高まっていたが、今後もサイバー空間上で完結できる仕事は一部にとどまるとすれば、都心居住の人気は簡単に衰えそうにない。
 先に紹介した内閣府の調査では、地方移住への関心は東京都区部の20代で、35.4%が高まったと回答していた。しかし、だからといって実際に移住に踏み切ろうとしているわけではなく、むしろ、テレワークを経験したが故に、これまでの通勤時間に費やしていた無駄に気づき、より通勤時間を短くしたいとの志向が高まっているとの調査結果もある。人材情報会社の学情が行ったアンケート調査では、テレワークを実施している20代は、今後の希望の通勤時間について7割が「短くしたい」と答えた。テレワークを実施していない20代の「短くしたい」との回答が4割であったのと比較して、かなり高い割合であった。テレワークを実施している20代の通勤時間を短くしたい理由としては、「自由に使える時間を確保したい」が一番多く、次いで「テレワークで通勤時間に負担を感じた」が多かった。
 完全にテレワーク化できるとすれば、郊外や地方への移住も含め住む場所の制約はなくなるが、そうではなくある程度は出勤しなければならないとすれば、その便も考えて住まい選びをする状況はあまり変わらないことになる。それどころかこの調査結果は、テレワークの経験により、職住近接で通勤時間を縮めたいとの志向が強まっていることを示している。

所有優先から利用優先へ


 特に20代では、就業後時間の充実やプライベートでの利便性を考える人が多いと推察され、このような結果が出たと考えられる。より高い年代の子育て層であれば、例えば週1回程度の出勤で済むのであれば、郊外の広い戸建てでのびのびと子供を育て、普段はそこでテレワークするという選択肢も浮上してくると思われる。また、子育てが終わった後であれば、山や海近くのリゾート地などでテレワークするという選択肢も有力になるかもしれない。
 さまざまな選択肢が考えられるとなると、今後は、住まいと働く場所はライフステージに応じて自由に変えていくという発想が広がるかもしれない。そうすると、いったん取得した住宅に、住宅ローン返済とともに一生縛られるという、現在の所有優先のスタイルは、あまりスマートではないと考えられるようになる可能性も出てくる。
 実際、近年の調査を見ると持ち家志向は低下する傾向にあったが、これに拍車がかかる可能性である。しかしこうした傾向とは裏腹に、2000年代に入ってから、若年層を中心に持ち家率は上昇を続けてきた。住宅ローン金利の低下や住宅ローン減税の拡充、さらに若い世代は共働きが多く収入面でも住宅を取得しやすいことなどが、この間の持ち家取得を後押ししたと考えられる。若い世代での間では、共働きで忙しいなか、都心物件の人気が高かった。
 したがって、今後、テレワークがさらに広がるにしても、夫婦ともそれで済む状態にならない限り、住宅を取得する場合でも都心物件の人気は変わらないかもしれない。ただ、取得する場合でも、その後の仕事や生活の変化にも対応できるよう、いったん取得した物件に縛られずに、売りたい時に確実に売れる物件、つまり価値を保ち続ける物件を取得したいとの意向が強まっていく可能性は考えられよう。これは、所有はするもののそれがゴールではなく、その後の市場価値に重きを置くという点で、広い意味で利用優先の考え方と位置づけられる。このようにコロナ禍は、今後、人々の住宅に対する考え方を変えていく可能性がある。

2020/9/16 不動産経済FAX-LINE

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