コロナ禍で明暗のJリート<br>―不動産市場の常識・期待を覆す
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 経済活動がコロナ禍で停滞し、緊急事態宣言の解除後に経済正常化に向けて模索するものの、コロナ前の水準にはほど遠い。内閣府も2012年12月から始まった景気拡大局面が2018年10月を山に後退に転じたと認定した。ただ、株式市場はコロナ前の水準に戻し、不動産市場の先行指標である東証リート指数も2月20日の年初来高値2250.65ポイントの7割超の水準まで戻している。Jリートから不動産市場を展望する。

投資家心理は複雑に揺れ動く
オフィス市況の動向に注目集まる


 市場に溢れる緩和マネーが株高を演出しているのとは裏腹に、日本経済の悪化に向けての材料にはこと欠かない。政府の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)は、地方の基礎的財政収支(PB)の黒字時期を今年1月時点の予測から2年先の2029年度に延びると試算している。コロナ対策による大型補正予算と企業収益の悪化に伴い税収の落ち込みが想定されることから政府目標の2025年度の黒字化は難しいのが実情だ。2020年4~6月期のGDP(国内総生産)は、年率換算でマイナス27.8%とリーマン・ショック後のマイナス17.8%を超えて戦後最悪の結果だった。
 東京五輪・パラリンピックが2021年の夏に開催を延期したが、それも実際に開催されるのかは危うい状況だ。東京都は、来年の開催を成功に導くために年内にも国内外から集まる選手や観客らの感染防止策をとりまとめる方針でいるが、来年の夏に世界中のコロナが収束しているとの見方はほぼ皆無である。
そうした中で、今後の不動産市場について明るく展望することもまた極めて難しい。Jリートに投資する地銀や外資勢は、経済の悪化に伴い不動産市況も悪化して分配金の原資となる収益物件の賃料と資産価値が下落することで物件の売却益が弱含みに転じるという負のスパイラル懸念を拭いきれない。投資家心理は複雑に揺れ動いている。
 主力の投資運用商品であるオフィスビル。企業のテレワーク導入の広がりを受けて富士通や日立製作所がオフィス面積を半減することに衝撃が走った。オフィスを使う企業の経営者の判断次第ではあるが、東京都心のビル空室率は今後上昇する見込みだ。SMBC日興証券の投資家向けのレポートでは、都心5区の空室率が2020年末に4.3%、2023年末には5%近い水準まで上昇することしを見込んでいる。2020年竣工の大型ビルの延床面積は計220万㎡を超えており、今後の動向に注目が集まっている。 
 直近の空室状況の特徴としてIT系企業の解約による影響が出ている。「これからのオフィス市場はIT企業によるテナント需要がけん引する」と見られていた状況がコロナで一変。リモートワークを推進するテック業界がオフィス不要論を後押しする格好につながっている。IT企業では、必要のない床を返す動きを活発化させており、この動きの広がりに伴い、空室率や賃料水準が悪化に転じる可能性が高まっている。
 一方で、リモートワークが全ての企業に普及するのではなく、二極化が進展するとの意見も少なくない。神戸大学経済経営研究所の江夏幾太郎准教授は、「個人的にリモートワークが広く浸透するとは思っていない」と話し、キャリアを自分で設計できる人などリモートの二極化が進むと見ている。実際、オフィスの床面積を半減するとの動きとは別に、アマゾンでは、コロナ収束後に原則出社の方向を打ち出した。リモートワークをしたくてもできない部署からの反発を想定して対応するものだ。

安定する賃貸住宅、物流施設に投資マネー
取引価格割安感高まれば外部成長に好機も

 そうした中で、オフィス運用に特化する日本ビルファンド投資法人(NBF)の6月期決算は、コロナの影響が大きい飲食店舗等に賃料の減免・猶予を実施したにもかかわらず、営業収益・営業利益はほぼ横ばいで着地し、期中の平均稼働率は99.4%とほぼ満室稼働だった。大和証券オフィス投資法人の5月期決算でも、これまでの賃料増額を反映しての増配が投資家の心理悪化を和らげた。
 今後の市場について、NBFは、都心のハイスペックのビルニーズは変わらないと見ている。企業の競争力を確保するために、優秀な人材の確保、働く環境・利便性の追求も不変であり、従来型のオフィスに加えて、サテライト、在宅のバランスは、企業の特性や従業員のライフステージの違いによって変わってくると分析する。
足元では、オフィスビル以上にもがいているセクターが、商業施設やホテルである。ショッピングセンターなど商業施設では、売上高の大幅な減少による歩合賃料の減額ダメージは大きい。JLLが「東京リテールマーケット」として調べた結果では、賃料と価格に下押し圧力が強まっており、緊急事態宣言下(4月7日~5月25日)の小売り販売額は4月に前年比48.2%減、5月に同43.7%の落ち込みを見せた。人の流れも渋谷で8~9割の減少となった。この期間に新規開業予定だった商業施設も延期を余儀なくされた。
 緊急事態宣言明けも客足の戻りは鈍い。訪日客の蒸発はホテルなど宿泊系を直撃。ホテル宿泊施設を投資対象とするリートは客室稼働率がコロナ前の8割減と苦戦が続く。8月25日にジャパン・ホテル・リート(JHR)とインヴィンシブル(INV)の両投資法人が7月の運用数値を発表したところによれば、JHRのRevPAR(Revenue Per Available Room=客室1室当たりの売り上げ)は1年前の同じ月との比較でマイナス78.1%となった。8月も同程度の落ち込みが予想されている。INVのRevPARもマイナス71.2%と大きい。同社の8月でも60%超のマイナスを見込んでいる。
 業績予想の修正も発表され、JHRの12月期は、未定としていた分配金を前年比96.6%減の126円に変更し、ホテルの固定賃料の減免も発表した。1月分を除き、2月からの固定賃料を免除。2021年は全額変動賃料とし、2022年以降から固定賃料と変動賃料を組み合わせながら運用する方針だ。
一方、賃貸住宅はオフィスビル、商業施設、ホテルと比べリスクが低く安定感のある運用が可能と評価されている。実際に、リートが運用する高額賃料のマンションの賃料単価は高水準を維持している。住まいが、居住者の職場と同じ生活の基盤に立地しており、稼働もほぼ満室だ。物流施設も巣ごもり特需を反映し稼働率が高い。長期の賃貸借契約という強みを背景に安定感は他のアセットと比べて群を抜き、契約更新時の賃料増額傾向が魅力で投資マネーを呼び込んでいる。
 新型コロナの悪影響は大都市部ほど大きい。企業収益の源泉である人の流れが止まることで経済が硬直化することを確認できたが、コロナ禍の影響で取引が鈍っている中で取引価格が割安になれば運用資産を買いやすい環境になり、Jリートが外部成長する好機とも言えよう。

2020/9/5 不動産経済ファンドレビュー

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