距離やペーパーのやり取りの煩雑さなどに難儀している、海外から日本への不動産投資。ただしIT重説に加え、来年5月にもスタートする売買契約書などの書面電子化解禁は、こうした国境を越えた投資の促進に効果が大きいとみられる。中華圏の個人投資家においては、中国・恒大集団の経営危機の表面化などで中国国内の投資を忌避する状況も窺え、対日投資には追い風が吹きそうだ。日本国内で中華圏投資家に日本の不動産を紹介するサイトを運営する、神居秒算(しんきょびょうさん)が示したリリースによると、
- 中華圏の投資家の93%が「海外への渡航が可能になれば物件を見に行く」と回答
- 貯蓄の5割以上を日本不動産へ投資を検討中と回答
- 56%が、日本不動産への投資タイミングに関し、「今がチャンスだと思っている」と回答
- コロナ後の海外渡航先、1位は「日本」
神居秒算
と日本への投資に対する関心が強いことが見て取れる。そこで神居秒算代表の趙(ちょう)氏へ中華圏投資家の動向や関心、日本の不動産の「電子購入」ニーズはどれくらいあると見ているか、などについて話を聞いた。
―重説・契約書類の電子化で中国人個人投資家の日本へのインバウンド投資はどう変わるとみているか
趙氏 従来の書面原則がIT解禁によって、中国の投資家が日本へ投資する場合に、完全にオンラインでできることになる。来年はインバウンド投資が復活し、それが加速する年ではないか。書面電子化などでまず変わるのは、投資家心理だ。中国人は日本で不動産を買うときに、契約書を国際郵便で送り、日本国内の代理人を通じて契約している場合が多い。こうした間に誰かが介在するやりとりが、オンラインの一気通貫によって、「自分で購入した」物件を「自分で契約できる」という実感が高まるはずだ。不動産は高額商品にかかわらず、現状では代理契約なので、自分が本当に買ったという実感がない。自動車のように、商品として自分が手に入れたのだという実感を感じてもらうことが消費者目線で大事。サービス体験は実感だと思っている。
―代理契約の中身について
趙氏 中国人投資家は、契約に係る委任状を日本在住者に渡し、契約と決済を全て委託するケースが一般的。日本における代理人は、日本にいる自分の友達か、司法書士や行政書士などの不動産周りの法律のプロ。契約書類などの書面は日本国内においてのみやりとりされる。契約書の中身は中国語が分かるスタッフを介して、事前に買主に説明して了承をもらい、その上で仲介業者が日本の代理人に対し重要事項説明を行って契約する。代理契約がNGの場合は、契約書類は直接買主とやりとりすることになる。その場合はEMSなど国際郵便で行うが、その場合は非常に時間が掛かり、非効率だ。
―神居秒算について。GAグループにM &Aされた
趙氏 16年12月に神居秒算の前身となる会社を日本で創業、17年1月に第一弾となるサービスをローンチした。神居秒算とは「神のような住まいを速やかに探せるサイト」という意味。当社は全国15万棟のマンションのデータベースを保有しており、このDBを活用することで将来的な価格分析、AIによる物件査定などで使える。加えて当社には独自のAR技術があり、スマホのカメラで建物の外観の写真を撮ると、建物内に販売中の物件はあるか、空室はあるのかといった情報がわかるコンテンツを当時作った。こうしたサービスが評価されて、20年9月にGAグループに入った。今は中間圏へプラットフォーム事業をやっている。中国の投資家に対して日本の不動産会社と繋ぐ役割だ。広告はあまりしていないが、日本の中華圏の業者の間で口コミで仕事が増えている。
―華人経営の不動産仲介業者について
趙氏 中華圏出身の日本の不動産仲介業者が東京・大阪中心におり、中国の投資家は東京・大阪の不動産を好んで購入する。華人経営の仲介業者は全国で1000店舗はある。会社の謄本が日本名でもいざ訪問すると中国語が通じるということは、東京や大阪ではよくある。
―中国では恒大問題に代表される不動産危機がある
趙氏 恒大集団は中国で一番大きいデベだ。8月に中国政府による不動産価格を抑制するための総量規制が発出され不動産向けのローンが制限されるようになった。恒大に代表される中国のデベは土地を取得してそれをストックしているが、キャッシュフロー が一気に悪くなり、問題になっている。だがこれは一時的な問題だ。中国中央銀行は10月15日付で不動産市場を安定させるという声明が出された。当初は実需と投資目的の両方が制限対象だったが、 今は実需については緩和の方向に進んでいる。不動産市場は今はまだ回復していないが少しずつ規制は緩和されていくと見ている。今回の問題は時間が経過すれば徐々に解消できると思う。恒大の資産は1.19兆元ほどあるが、それを全部販売できればいまの社債問題はある程度、解消する。各地方政府にも資産処理を進めさせている。
―そういう状況で日本への投資に与える影響は
趙氏 経済成長で中国人は徐々にお金持ちになり、海外旅行へ盛んに行くようになった。気にいった国については、現地の不動産の購入を検討する人が多い。日本へのインバウンド不動産投資が盛んになったのは14年ごろからだ。インバウンド投資と訪日観光客数の推移には一定の関係あると思っている。19年が日本における外国人の不動産購入のピークだったが、同時に訪日外国人の数は3000万人に達している。日本政府は観光立国が国策ででもあり、将来的には5000 万人とする目標がある。当社が行なったアンケートでは、コロナが終わってまず旅行したい国の1位に日本が入った。日本と回答した割合は89%と圧倒的な人気だ。