安心R住宅の見直し方針に事業者は賛否―品質重視の観点から差別化効果に懸念

 国土交通省は、「安心R住宅制度」の見直しを進めている。同制度は、既存住宅に対する「汚い・不安」といったイメージを払しょくするため、18年4月からスタートした国の制度。インスペクション実施済みで、瑕疵保険に加入できる性能があり、リフォームが行われた(またはリフォーム提案書が付いた)新耐震物件を対象に、広告で専用のマークを表示することができる。しかしこれまでに流通した物件数は累計で3325件と振るわない。制度設計の見直しにより、国交省は安心R住宅の流通拡大を目指す考えだ。
 見直しの方向性は既に示されている。インスペクションが実施されその調査結果があれば、安心R住宅として認められるようになる。リフォーム要件はなくなる。瑕疵保険に加入している物件などには星マークを付けて、より質の高い既存住宅を分かりやすくする。
 安心Rの取得要件を緩和する見直しを、事業者はどうとらえているのか。既存戸建て住宅の買取再販事業を営むパラディスハウス(横浜市保土ケ谷区)は、安心R住宅に力を入れている業者。グループにリフォーム会社があり、リフォームまでワンストップでできることを強みに、現在は年間約100物件を取り扱う。このうち9割程度を安心R住宅として販売している。
 同社は「同じ買取再販業者内で、差別化をしたいと思ってやってきた。(制度が)広がらないからといってハードルを下げるのはいかがなものか」と意見する。特にこだわるのは瑕疵保険だ。「既存住宅の取引で一番怖いのは瑕疵。当社は検査料、保険料も当社負担で保険に加入した安心R住宅を販売してきた。そこまでやらない業者も一緒になってしまうと差別化にならない。リフォームをしない業者も同様。ストックの質重視の考え方からすると、優良事業者を育成する方向に動いてほしい」(パラディスハウス)と話す。
 高品質な既存住宅基準「スムストック」を主導した積水ハウスも、安心Rの見直し内容は不十分だと指摘する。「インスペクションの結果、傾きがあると分かれば当然安心な住宅ではない。顧客目線でみれば、保険が付保されている方が『安心』の落とし込みがしやすい。インスペクションの指摘無し、保険付保可能状態、または指摘事項があればそれを解消する方法が明確にできれば安心につながる」(積水ハウス)と提案する。同社は住宅ローン減税や住宅ポイント制度などで具体的なメリットを与えることも求めた。
 
◎リフォーム要件撤廃を評価する声も

 一方で、リフォームの要件がなくなることで「十分な見直し。現実リフォームは顧客のニーズに合わせて行うもので、物件に紐づけるものではない」(安心R取扱事業者)という声や、「インスペクションの結果をしっかり説明すれば、性能が明確になり、購入の判断基準にはなる。打ち出し価格が下がることで間口が広がる」(あるハウスメーカー)など、見直しを評価する声もある。
 制度を所管する国交省住宅局住宅生産課の石坂聡課長は「多くの事業者の皆さんに制度を使っていただきたい。そのための見直しであり、いろいろな方々の意見を聞きつつ進める」とコメントした。安心Rは告示による制度のため、見直しに法改正は不要だが、住宅局が21年通常国会に提出する長期優良住宅法などの改正法案の動きに合わせて見直しは進められる。早ければ21年夏頃に新・安心Rがスタートする。(日刊不動産経済通信)

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