コロナ禍で不動産市場に変化の兆しがある。内実はどうか。CBREキャピタルマーケット・マネージングディレクターの辻貴史氏に最前線の様子を聞いた。
―アセット別に市況感を伺う。
辻氏 ホテルとリテールは多くの投資家が市場の回復時期を探っている。東京都心の賃貸オフィスは昨年末に空室率の上昇が落ち着いたが、来年以降に大量供給も予定され、今後数年は賃料が弱含みになりそうだ。オフィスの売買取引は慎重姿勢が目立つが、最近は法人の実需が強まり始めてもいる。自前で本社ビルを建てるよりも既存物件を買った方が合理的だという判断で、資金力のある法人が空きビルを物色している。
―外資ファンドが日本の不動産を買う動きも強い。
辻氏 日本市場に参入するファンドが市場での存在感を高めるために100億円規模の大型ビルを買う動きがある。そうした大口投資が賃貸需要の鈍化傾向をカバーし、オフィスの売買価格が維持されている側面がある。多くの売り手が値下げを視野に入れているが買い手は強気で、結果的に価格が横ばいになっている。都心のプライム立地のテナント需要は2~3年もすれば再浮上すると読む投資家が多い。東京ほどではないが福岡や札幌などのオフィスも買いの需要が強い。
―東京のオフィスは長期的に需給が緩みそうだ。
辻氏 空室率は上昇基調だが、企業の出社率低下がオフィスの需要減退に直結するとは言い切れない。中国の地政学的リスクや米国の利上げ政策を考えた時、投資先として日本市場の有望さは際立つ。外資の買い需要にも支えられ、現状の取引規模が保たれそうだ。
―コロナ禍でコワーキング施設が急増した。
辻氏 セット・アップ型を含め日本にはまだまだ数が少なく、成長の余地がある。日本のオフィス契約は定借化が進んでいるが、契約の選択肢を増やす調整弁としての役割も期待されている。
―オフィスのリースバックが増えてきている。
辻氏 コロナ禍以前に当社が扱っていた事業法人の売り物件は取引全体の3割強程度だったが、今は6割に倍増した。企業らが財務悪化を受け、既存の工場を売って賃貸借契約に切り替えるといった事例もある。コロナ禍でCRE戦略を真剣に考える企業が増えた。
―物流施設市場は大都市圏を中心に活況が続く。
辻氏 事業法人による工場跡地の売却が増えた。当社が国内の事業法人と世界の投資家との橋渡し役を果たす機会が増え、業績が拡大した。
―特に首都圏では物流の開発競争が過熱している。
辻氏 関東と関西では施設が増え、還元利回りもかなり下がった。そこで東北や九州南部、滋賀、三重などに物流の中継拠点を作る動きがある。24年4月にドライバーの残業規制が厳格化される。1日の走行可能距離が縮まれば拠点分散の流れが強まりそうだ。
―ホテル市場にも投資需要が戻りつつある。
辻氏 需要回復への道筋が見えてきた。手薄だったホテルの売買仲介に力を入れていく。ホテルのコンサル業務は運営面が中心だったが売買にテコ入れする。
―今後、部署をどう成長させる。
辻氏 物件をただ右から左に動かすのではなく、ファイナンスや物件の運営管理など売買のプロセスを包括的に後押していく。コロナ禍で企業や事業部門を売り買いする相談が増えた。企業買収ファンドと組むなど、不動産仲介業の固定観念にとらわれず新たな領域に挑戦していきたい。(日刊不動産経済通信)