新時代の管理運営を探る56 在宅避難に必要な電力を確保するマンション等を認定 東京都がLCP住宅制度を再構築(上) 飯田太郎(マンション管理士/TALO都市企画代表)
マンションタイムズ

堅固な鉄筋コンクリート造の不燃建築物であるマンション等の共同住宅は、現行の耐震基準を満たしていれば倒壊の恐れがほとんどなく、居住者の生命を守るシェルターとしての役割を果たすことができる。しかし、中高層建物であるマンションで被災後ある程度の期間、生活を続けるためには、停電時でもエレベーターと給水設備が稼働しなければならない。実際には、超高層や一部の大規模物件等を除けば、こうした機能を備えた共同住宅はほとんど存在しない。在宅避難が実際にできる仕組みの早急な普及が望まれる。

近年、各地で地震が頻発、河川氾濫等による水害も多発しているが、コロナ禍の影響もあり小中学校等に開設される避難所は3密になりやすいため利用することを敬遠し、建物が大きな損傷を受けない限り、自宅で被災生活を送ることを希望する共同住宅の居住者が増えている。もともと東京では避難所が不足することもあり、自治体が制作するマンション居住者向けの災害対応マニュアル等も在宅避難を推奨することが多くなっている。しかし、中高層のマンション等では、生活継続に必要なエレベーターや給水設備が稼働するために必要な電力を確保することができなければ、在宅避難をすることは事実上不可能である。

一定規模以上の共同住宅には消防法・建築基準法で非常用自家発電設備の設置が義務づけられている。これは災害時に非常用エレベーター・消防設備などの防災用設備を稼働させるためのもので、居住者の生活に必要な電源として使用することは想定していない。居住者の生活継続のための自家発電機等を設置している共同住宅は、ほとんど存在していないのが現実である。

東京都が2020年9月に施行した東京都LCP(Life Continuity Performance)住宅制度は、停電時でもエレベーター運転や水道供給に必要な非常用電源の確保や、防災マニュアル策定等の対策を施した、災害時に生活継続しやすいマンション等の共同住宅を認定、その住宅情報を登録簿に搭載し都のホームページで一般公開する仕組みである。在宅避難を希望するマンション等の管理組合や自治会、居住者の期待に応えるものだ。

実は東京都がLCP住宅制度を創設したのは2012年度に遡る。東日本大震災の記憶が生々しい時でもあり、マスコミも取り上げるなど注目された。だが発足当時、この制度は東京電力から供給される電気とは別に、ガスコージェネレーションシステムを導入し、停電時に利用可能とするという電力の二重化を想定。また、平時にはガスコジェネの熱の有効利用や、高圧一括受電により電気料金を削減することで、設備導入に伴う新たな居住者負担を生じさせないこと等を認定条件としていた。認定基準のハードルが高いことに加え、PR不足もあり2014年度までに4件が登録されたものの、その後は増加しなかった。

しかし、東日本大震災後も熊本地震等の地震が相次いで発生し、台風による長時間の停電も毎年のように起きた。マンション等の共同住宅で生活に使える非常用電源の必要性が改めて認識されるようになった。東京都は2017年頃から民間の有識者の意見も求め、制度の見直しを検討、2020年9月にLCP住宅制度を再構築した。

新時代の管理運営を探る56 在宅避難に必要な電力を確保するマンション等を認定 東京都がLCP住宅制度を再構築(下 へ続く

2022/3/5 月刊マンションタイムズ

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