新時代の管理運営を探る56 在宅避難に必要な電力を確保するマンション等を認定 東京都がLCP住宅制度を再構築(上)より続く
再スタートしたLPC住宅制度は、ガスコージェネレーションシステムだけでなく、中小規模の集合住宅でも設置可能なように、自家発電設備、太陽光発電設備と蓄電池設備のほか、エレベーターと給水ポンプを稼働させる能力のある装置を幅広くハードの対策として採用することを認め、登録対象とした。また、災害発生時のこれらの設備を管理組合や自治会等が使いこなすことができなければ意味をなさないため、防災マニュアルを策定していることを必須条件としたうえで、年1回以上の防災訓練や3日分程度の食料・飲料水の備蓄、応急用資器材の備蓄、居住者の連絡体制の整備のいずれかの対策がとられていれば、ソフトの対策として登録対象とした。
また、登録表示もハード対策とソフト対策の組み合わせや、生活に使える非常用電源設備の稼働能力を評価し、防災対応力を一つ星、二つ星、三つ星の3段階で表示することで、防災に意欲的な多くのマンション等が認定、登録されやすい仕組みとした。登録マークやイメージキャラクターの作成等、PRにも力を入れた結果、2022年2月末現在、旧制度時代のものも含め、新たに6件(計2359戸)が登録されている。本紙2021年10月号で紹介したTEC Green Residence(江東区)も11月12日にLCP住宅(三ツ星)として認定、登録された。
公・民の連携でLCP住宅の普及を
東京都内には分譲マンションだけで187.9 万戸(2019年末現在)のストックがある。中高層の賃貸共同住宅を加えれば膨大な数になることに比べ、現在のLCP住宅の認定、登録数はいかにも少ない。30年以内に70%の確率で発生するという首都直下地震や、江東5区だけでも250万人が被災するという荒川の氾濫等を考えれば、生活に使える非常用電源設備を備えたLCP住宅等の普及を急ぐ必要がある。
国土交通省が実施するマンション総合調査(2018年)によれば、区分所有者への設問のなかで「マンションの管理に関して取り組むべき課題(重複回答)」として最も多いのは「防災対策」である。しかし実際には、区分所有者・管理組合が管理の主体である分譲マンションの災害対策は進んでいない。筆者が相談役を務める(一社)マンション生活継続支援協会(MALCA)も、MLCP(マンションライフ継続計画)や地区防災計画の普及、独自の認定資格であるマンション防災認定管理者研修等に取り組んでいるが、災害対策への想いと実績には大きな差がある。単なるPR不足等が原因とはいえない問題があることを痛感している。
分かりやすい仕組みとPR、低利の融資制度等の一定のインセンティブ等の区分所有者・管理組合に届く工夫をすれば、LCP住宅制度の普及を含めマンション等の災害対策を加速することは不可能ではないはずである。
既存の中小規模のマンション等の共同住宅をLCP住宅とすることは、機器の設置場所、建ぺい率、容積率等の制約から困難な場合も多いと思われる。TEC Green Residenceを供給した(株)辰巳菱機は、LCP住宅のハード部分であるLPガスまたは燃料電池による発電装置、ソーラー発電パネルと蓄電池等を2トントレーラーに搭載した移動式のシステムを開発している。移動式のシステムであれば敷地が狭い場合でも設置が容易になり、マンション等で実地にLCP住宅をPRすることもできる。
LCP住宅の再構築にあたり東京都は、設計事務所、ゼネコン等が参加する(一社)新都市ハウジング協会の協力を得たということも聞いている。公・民の英知を集めることでLCP住宅制度を普及する余地は大きいと思う。
2022/3/5 月刊マンションタイムズ