テーパリングフェーズの日本不動産市場とグローバル投資家の動向(下)CBRE代表取締役社長兼CEO 坂口英治
CBRE代表取締役社長兼CEO 坂口英治

テーパリングフェーズの日本不動産市場とグローバル投資家の動向(上)より続く

グローバル不動産投資家の動向

 重要なのは資金の出し手で、多くは年金基金だ。年金は長期安定的なリターンを求めるため投資戦略はコアとなる。賃貸住宅が外国人投資家に人気なのは、キャッシュフローが大きく上がらなくても、安定需要に支えられて下がらないからだ。

 主要国の年金資金推移を見ると、2011年の15兆ドル超が2019年には約25兆ドルと6割程度伸び、拡大傾向にある。ここで年金のアロケーションに注目したい。投資先は「株式」「債券」「現金」「その他」で、「その他」がオルタナティブインベストメントと言われ不動産はここに含まれる。カナダやアメリカ、オーストラリアなどはその割合が25~30%でその半分が不動産だ。2000年時点では不動産へのアロケーションは約10%だったが、2008年のリーマンショックで株と債券が同時に値下がりしたため、株と債券では分散効果が全くなかったのに対し、不動産価格は大幅下落もなく安定したキャッシュフローを生んでいたため、リスク分散効果が改めて見直されアロケーションが増えた。2030年までには、先進国の年金を中心にオルタナティブインベストメントを50%まで増やすとも言われている。「オルタナティブインベストメントの民主化」であり、不動産市場にさらに資金が流入する可能性が高い。

 これまで日本未進出だった不動産グローバルプレーヤーがこの数年競うように東京に進出しているのは、その裏にいるお金の出し手のニーズで日本を外せなくなっているからだろう。今後は安定利回りを生む不動産の取得競争は激化し、中長期的に競争力のある物件には多くのお金が集まると見ている。

アフターコロナの不動産市場

 コロナ禍では1000坪以下のオフィスの動きが多かったが、緊急事態宣言が明け経済が正常化するなかで1000坪超の動きが増えている。本社ビルに、WFHやフレキシブルオフィスを組み合わせるハイブリッドな働き方が主流となり、賃料がこなれてきたこともあるのか、コロナ前の借り方に戻る企業もある。とはいえ、企業のオフィス選択基準は最終的には労働生産性、即ちどうすれば一人当たりの売上高が最も上がるかに集約されると思われる。

 物流施設に関しては、グローバルサプライチェーンの混乱が新しい要素だ。これまでの日本はジャストインタイム方式で在庫を持たないことがよいとされてきたが、今回の混乱で在庫を持たない怖さを改めて認識した。ただでさえ物流は強いニーズがあり、それに加えて企業が在庫を持つ方向にかじを切ると新たな潜在的需要も掘り起こされる。グローバルサプライチェーンの混乱に対してどう動くか注目している。

 ホテルに関してファイヤーセールはほぼない。今は売り手と買い手の価格差が大きいこともあるが、いずれインバウンドが戻ることを前提とした価格でないと売買は成立せず、コロナ前の状況に戻るのも時間の問題と予測している。

来年の国内外不動産市場

 引き続き適温相場が続くであろう。キーになるのは、グローバルサプライチェーンの混乱、エネルギーコストや人件費高騰によるインフレ懸念、中央銀行による金融緩和の見直し。米国や欧州で金利上昇が進むと円安になる可能性が高く、そうなると輸入コストが上昇する。それがどう日本企業の業績に影響するのか着目すべき点である。

 世界的インフレ懸念のなかで、悪いインフレが起こると金融機関は融資に慎重になり企業は設備投資に慎重になる。日本自体はあまり強いインフレ懸念はないが、海外で起こると株価下落につながり、それが日本株価の下落に連動し投資家の萎縮ムードを引き起こすので、海外のインフレ状況を見極める姿勢が大切だ。

 東京に対する海外投資家の関心は非常に強い。また、日本の富裕層もカネ余り状態で、これまでラグジュアリー商品に流れていたお金が都心部の住宅に向かっている。今後、特に東京などの大都市は旺盛な資金需要を集めるだろう。

(不動産経済研究所主催:緊急セミナー「金融緩和縮小×中国・恒大問題、世界不動産バブル、これから起きること」【2021/11/5~11/30配信】」より抜粋収録)

2021/12/15 不動産経済Focus &Research

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