テーパリングフェーズの日本不動産市場とグローバル投資家の動向(上)CBRE代表取締役社長兼CEO 坂口英治
CBRE代表取締役社長兼CEO 坂口英治

不動産市場の現状

 「適温相場」という用語に尽きる。オフィス空室率はコロナの影響を受け東京、大阪、名古屋、福岡など全都市で上昇し2021年第2四半期は前年比で若干悪化しているが過去平均(2005~2021年)に比べるとかなり低水準で推移している。東京の2021~22年供給は過去平均を下回るため、経済が正常化すれば空室率は一時的に低下する可能性があるが、供給が増加する2023年以降は上昇すると予測している。賃料は緩やかな下落が続くだろう。大阪など地方都市はこれまで東京の賃料に影響されていたが、地方の需給関係など個別性が強まり東京と連動しなくなる可能性がある。

 首都圏大型マルチテナント型物流施設は2021~22年にかけて過去最大規模の供給が予定されているが需要も旺盛なため空室率の上昇は限定的で、賃料は緩やかな上昇基調が続くだろう。全国の事業用不動産の2020年投資額は前年を上回り、2021年(1~9月)も20年と同水準なので好調を維持するだろう。投資家アンケートによると、期待NCF利回りはこの1年間でホテルで若干上昇しているものの、リテールは上昇幅が限定的、オフィスは横ばい、物流施設と住宅は低下となっている。全体的なファンダメンタルズの弱含みを補って余りある資金が不動産投資市場に向かっているため価格は緩やかに上昇している。

不動産を巡る金融情勢

 現在のキーワードは「インフレ」。グローバルサプライチェーンが混乱しており、日本でも部品が集まらず商品がつくれないといったこともよく聞く。石油やLNGなどエネルギー関連コストの上昇および人件費高騰もあり、欧米で特に物価上昇が顕著だ。各国中央銀行が金融緩和前倒しを見直す必要に迫られており、特にアメリカでは11月にテーパリングの開始が決定し、来年には利上げが想定されている。一方で株式市場は金利上昇をバリュエーションに織り込みつつあり、欧米ではインフレを中心にバリュエーションを含めた今後のシナリオづくりが進んでいる。アメリカでは低金利が住宅価格の高騰を促してきたが、テーパリングが始まると中央銀行はMBS(住宅用証券化商品)を買わなくなり住宅に回る資金が減る可能性があるのでその影響を注意深く見守る必要がある。

 一方、日本では需要不足が2022年まで残ると多くのエコノミストが推測している。そのため、コストを最終製品価格に転嫁することが難しく、引き続き低金利が続き、その結果企業業績が痛む可能性がある。原油高や円安が日本経済にどういう影響を及ぼすのか、注視する必要がある。

アメリカのテーパリングが不動産市場に及ぼす影響

 過去を踏まえると不動産価格を決めるのは金利ではなく流入する資金の量だ。日本では、1990年に総量規制による不動産への流入資金の急減が不動産価格の大幅下落を引き起こし、結果的にバブルが崩壊した。現在はアベノミクスとコロナ対策でマネタリーベースが大きく膨れ上がり金利は上がりそうにないため、好調な不動産価格は続くだろう。

 アメリカは、FRBの量的緩和、特に2020年以降はコロナに対する景気下支え策の資金とそれに伴う低金利が住宅価格の高騰を支えている。一方で賃料も上がっている。テーパリングによる金利および住宅ローン金利上昇でどうなるか。過去に何度かの金利上昇局面でも住宅価格は落ちなかったので、住宅ローンの総額がどこまで下支えされるのか、その量に着目するのが正しいと思っている。

中国不動産市場

 労働人口の減少局面に入っている。これまでは人口ボーナスで経済の繁栄を謳歌してきたが、人口オーナスに変わり、大きなパラダイムシフトを迎えている。住宅価格は高騰しているが、習近平政権は「共同富裕」というコンセプトのもと価格調整を行おうとしているが、ドラスティックな政策は取らないだろう。というのも、中国は日本のバブル崩壊後の不良債権処理に関してかなり研究し、日本のように一気に進めるのは得策ではないとして、2000年前半の中国における不良債権問題も時間をかけて処理した過去がある。 現在の住宅価格問題も時間をかけながら価格を下落方向に導いていくと個人的には予想している。そしていずれ商業地の価格調整も始まるだろう。というのもこれまでの欧米や日本のデータを分析すると、住宅価格は商業地価格に先行しているからだ。単なる住宅問題でなく中国の不動産価格全体がどうなるかという問題意識で見ている。

 テーパリングフェーズの日本不動産市場とグローバル投資家の動向(下)へ続く

(不動産経済研究所主催:緊急セミナー「金融緩和縮小×中国・恒大問題、世界不動産バブル、これから起きること」【2021/11/5~11/30配信】」より抜粋収録)

2021/12/15 不動産経済Focus &Research 

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