不動産経済アーカイブ;「あの時はこうだった」東日本大震災④特集 震災後のマーケット動向・オフィス
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西日本シフトはまだ、問合せは増加傾向
 ―分散に期待、サービスオフィスは盛況


 
 放射線パニックで外国人を中心に東京から緊急避難する行動がみられることから、賃貸オフィス市場では大阪などへの「西日本シフト」が巻き起こるのではないかとの見方が出ている。だが現段階では、短期賃貸のサービスオフィスは盛況だが、賃貸オフィスへの引き合いは、多少増えたとはいっても顕著な動きにはなっていない。ただし、東日本地域は、原発事故の問題に加え、余震や停電リスクが長期化する見通し。ここにきてパニック現象は落ち着きつつあるが、企業は今後、「BCP(事業継続計画)」の観点からオフィスビルの耐震性確保やバックオフィスの新設を含め、分散配置を検討するとみられており、新規の需要や需要シフトに期待がかかっている。
 大阪が主力のダイビルは、「サービスオフィスへ外資系企業の緊急避難はあったようだが、いわゆるオフィス需要が高まっているとは感じていない。ただ、首都圏などの電力使用問題でオフィス分散の流れが出てくるかもしれない。大阪の(過剰とみられている)新築供給が吸収されることを期待したい」(財務・経理部)としている。また、元国鉄用地、大阪梅田北ヤード跡地開発を推進する三菱地所は、「震災以降、大阪でも、大型ビルに対し、問い合わせが増えたのは事実。ただ、そうすぐに決まるものでもない。この傾向が長続きするのか、一時的なのかはわからない」(広報部)と話す。北ヤードの開発は、2年後の13年春に竣工する予定。オフィステナントの募集にはまだ着手していない。
 森トラストも、「原発、余震リスクを回避するため、大阪で100坪規模の引き合いは来ている。だが、東西2拠点の分散配置など、本格移転はもう少し様子をみてから決めようというところが多い」(吉田武・取締役副社長)とする。一方、レンタルオフィスサービスのリージャスは震災後、大阪、名古屋、神戸、広島、福岡のほか、被災地の仙台でも需要が増加。大阪ではミーティングルームをオフィススペースに変更し、入室容量を70%増加させた。「問い合わせは、著しく増加」(広報担当)し、国内外の金融、テクノロジー、コンサルタント業種など、事業継続のほか、災害復旧を目的としている。 
 放射線パニックに関しては、ひとまず落ち着きつつある。大阪・梅田のスカイビルに、総領事館を置くドイツ政府は、3月18日から大使館業務を一時移転したが、4月11日から東京で一部大使館業務を再開した。世界最大級の化学メーカー、独BASF(バスフ)も、原発事故の影響を検討した結果、日本本社を置く東京・港区の六本木ヒルズのオフィスを一時閉鎖、名古屋オフィスに機能シフトしたが、11日から東京オフィスを再開した。ドイツ大使館は、移転した理由について、「福島原発の状況が安全とは言えないから。ただ、いまだ安全とは言えないものの、安定してきたことから一部再開を決めた。ドイツ国民には、東京、横浜の不要不急の滞在は避けるよう勧告している。東京の放射線は、心配はない程度だが、未成年は避けた方が良い」(広報担当)とし、大使館業務の全面再開に関しては、原発事故の収束がなお不透明なことから、未定としている。
 被災した仙台では、中心部などでビル需要が高まっている。東北一の超高層複合ビル、仙台トラストタワーは引き合いが多いほか、更新解約の撤回もあり、これまでの入居稼働率は5割だったが、年内目標を7割とした。また三菱地所は、「被害の大きなビルから、被害のない、または少ないビルへの移転のほか、復興支援で応援派遣されている人員用のスペース手当ての動きもある。当社のビルは、被害が軽微で需要の受け皿となり得るが、クライアントのニーズに協力していくスタンスで対応している」としている。大震災を受け、今後のオフィスビルマーケットでは、「耐震性能や、多く自家発電機能を備えたビルのニーズが高まるのではないか」(三幸エステート)との見方が出ている。
(2011/04/13 日刊不動産経済通信)

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