【2021年基準地価】⑥不透明感拭えない福岡のオフィス市場(下)
福岡・中洲

【2021年基準地価】⑤不透明感拭えない福岡のオフィス市場(上)より続く

 天神ビジネスセンターの隠し玉

 コロナ禍ではネガティブな解約事例が多く、空室率が上昇。解約一辺倒だったが、昨年秋以降は既存ビルの成約と解約の動きが半々程度まで改善してきている。中身を見ると、苦戦しているビルがある一方で、竣工前に埋まるケースもあり、二極化している部分もある。地元賃貸仲介会社によると、「中小の既存ビルの動きは足元では悪くない。コロナ以前の水準にはまだ戻っていないが、成約が徐々に増加し、拡張と新規という理由が5割前後まで回復している」という。

 新築ビルで高額な賃料でも入居するテナントは業種に偏りがある。第三次産業である「IT関連、人材関連、そして不動産に集中している」(前述の仲介会社)とのこと。このような業種にとってオフィスの役割は、事務スペースとしてだけでなく、リクルーティングを優位に進めようという意識が強い。一方でメーカーなど第二次産業の業種については戻りが遅い。とりわけ大手企業はいまだ様子見していて動きが鈍いままだ。

天神ビジネスセンター(物件HP)

 コロナ禍で竣工したビルで賃料をさほど下げることなく、リーシングに成功している事例もある。その代表例が「天神ビジネスセンター(天神BC)」だ。福岡市肝いりの「天神ビッグバン」の初弾で、福岡市内のオフィスビルとして初の坪3万円の賃料で粘り通した。実際の成約賃料も下げている様子はなく、テナントは9割決定し、この時期としては好調といえる。主なテナントはNECグループ、ジャパネットホールディングスなど。NECは九州のグループ会社を天神BCに集約、ジャパネット は3フロアの区分所有権を所有者の福岡地所より取得しており、東京から一部の拠点を同ビルへ移し入居する。「ジャパネットは福岡都心部で中、小型ビルを買おうとしていたが、適当な物件がなく、天神BCの区分を買ったのではないか」とは地元関係者。天神BC着工時に開かれた記者会見(19年1月)で、福岡地所の榎本一郎社長は「アマゾンのような国内外のIT企業を誘致したい」と語ったが、現に複数のIT関連企業の入居があり、中には看板を掲げず入居に至ったアマゾンとは別の世界的IT企業もあるという。

 福岡大名プロジェクト テナント内定「ゼロ」

 福岡ビジネス地区の8月のオフィス空室率は4.5%で、ボトムの3%以下という水準からどんどん空室が増えている。その要因は新築が増えているためで、新築は埋めきれずに竣工している。来年以降も大・中規模ビルの供給がパラパラと続く。天神ビッグバンの第二弾以降はどうか。旧・大名小跡地再開発「福岡大名プロジェクト」が2022年12月に竣工を迎える。地上25階建、延床面積2万7700坪、基準階床面積750坪、貸室面積は約9000坪と、天神BCに次ぐ貸室面積の大型案件だ。坪賃料は天神BCと同水準の3万円。この強気の価格設定のためか、9月末時点で入居決定はゼロ。福岡で3万円クラスの賃料では金払いのいい業種・企業などテナントが限られてしまい、募集が先行した天神BCで需要が先食いされた感がある。3万円以上の貸床面積が天神BCと大名プロジェクトを合わせて2万坪を超えるが、そこまでの需要が現時点であるのかというところになる。

工事中の福ビル街区(福岡・天神)

 さらに2024年には「福ビル街区建替プロジェクト」が竣工する。場所は天神ビジネスセンターの隣接地で、天神交差点に面する福岡ビジネス地区の一等地にあたる。地上14階建で、延床面積4万4000坪、基準階床面積1400坪、貸室面積は1万4000坪。賃料は未定だが、一連の天神ビッグバン計画の中で最も高くなると見られている。加えて24年はヒューリックによる「ヒューリック福岡ビル」の建替え竣工が9月に控える。天神ビッグバン適用案件で、建替え後のビルは高さ92m、地上19階地下3階建て、地下と低層フロアは商業施設、中層階にオフィス、10階以上の高層フロアにホテルが入る。ホテルについては具体的な発表がなく、コロナの影響によるインバウンドの減退を受けて、高層階もオフィスに変更する可能性もある。

 25年以降は、「福岡市役所北別館再開発」(天神1丁目)、「イムズ跡地開発」(同)、「福岡三栄ビル跡地」(同)、「日本生命福岡ビル跡地」(同)、「住友生命福岡ビル跡地」(天神2丁目)、「天神西通りビジネスセンター跡地」(同)などが控える。オフィス需要の先行きが見えない中で、開発プロジェクトは続いていく。

博多は明らかな供給過多

 福岡ビジネス地区の平均空室率4.5%をさらに細かく地区別でみると、天神エリアは3.5%と低いが、博多駅前は5.1%と高く、さらに博多駅東南エリアとなると5.8%と、博多駅周辺で空室が目立つ。旧・博多スターレーン跡地開発として注目を集める2022年8月竣工予定の「博多イーストテラス」(博多駅東1丁目開発計画)は9月末時点で約2割、800坪程度の内定とみられ、苦戦が続く。ビルのスペックは最新グレードながら、坪2万3000円という賃料設定、テナントとの契約が定期借家契約である点、博多駅からやや距離がある上、駅裏エリアの第二次産業が好みそうな立地という点で、ビルのグレードとテナントニーズにギャップが生じている。こうした新築ビルは値を下げずに耐えているが、このクラスに賃料を下げる動きが出ると、周辺にも影響を与えそうだ。地元仲介業者によると「福岡、特に博多は供給過多。リーマン・ショックの時と同じ流れにならないか」と不安を口にする。

 テナント付けに苦戦する一方で、福岡の売買市場は高額をキープしている。世界的な金あまりの中、東京都心の物件高額化で東京で買えなくなった在京の不動産会社や、外資のファンドをバックにした企業からの引き合いが活発になっている。近年はオフィスビルの売却入札があっても、福岡地場のプレーヤーは一線を引いているのか、入札には加わらない傾向が強いという。一時期、ガソリンスタンド経営の福岡スタンダード石油(福岡・久留米)が中洲の商業ビル「gates(ゲイツ)」など福岡市内の商業用不動産に積極投資していたが、今は目立った動きがない。案件が高額化し、適切な価格で購入できる時期ではないと判断しているためだ。

福岡・中洲 Gates(ゲイツ)

 福岡の市場の今後の見通しは、オフィスビル大量供給の影響と、上場企業のオフィス戦略がどう顕在化するかに掛かっている。札幌など他の支店経済都市に共通するが、本州から離れた場所にいったん進出した企業は撤退しにくい。そのため需要はゼロとはならないものの、リモートワーク、時短勤務、分散出社といった理由で企業のオフィス縮小の動きが明確になった場合、空室率が一気に上昇し、テナントの取り合いで賃料はダンピング合戦となる。福岡のオフィスビルは、リーマン・ショックの直後は15%まで上昇した。今後福岡のオフィス市況は10%程度の水準に達することも考えられなくはない。

 

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