シリーズ;「事故物件を歩く」③
アウトレット不動産・昆社長

シリーズ;「事故物件を歩く」②より続く どのような物件が事故物件となり、それがどのように加工されてどのような人が購入しているのか。アウトレット不動産の昆佑賢社長(写真)に事故物件が発生する理由、事故物件化しにくい不動産とはどのようなものか、そして事故物件はどのように「加工」すれば流通しやすくなるのか、エンドユーザーはどういう人なのかについて聞いた。昆社長は一般社団法人・建築医学協会(松永修岳理事長)の理事・幹事長を務めている。

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-事故物件化しやすい物件の特徴はあるか


昆氏 建築医学的に考えると、あらゆる事故物件に共通するものとして「寒い」、「暗い」、「汚い」、「臭い」、「間取りが悪い」の5つの要素がある。モノがたくさんあるので汚くなるし、片付けられないから臭くなる。どんなところに住んでもいいわけではない、というのが建築医学の考え。私は「家で未来が固定される」とすら思っている。住まいが遠因となって知らず知らずのうちに悪い方向性へ向かう可能性がある。

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-寒さ、暗さ、間取りの悪さは先天的な要素だが、後天的な部分について。なぜモノが増え汚くなり、臭っていくのか


昆氏 寒さ、暗さ、間取りの悪さがその後の生活に影響を与える。例えば暗く狭いマンションで、男性の孤独死の案件があった。家に入ったら、ウイスキーの便が何十本も捨てられておらず傍に置かれていた。最期は捨てる意欲も起きなかったのだろう。この物件の間取りは、玄関を開けたらすぐキッチン、その脇にトイレがあった。食事をする場所と、排泄の場所が隣りあっていて、脱衣場もなかった。そのような部屋には人を呼べない。誰からも見られることがないから、片付けなくてもよくなってしまう。人は常に掃除するようにしていれば、綺麗を維持したい気持ちが出てくる。だがこのような部屋の場合は、仮に片付けても、綺麗にはならない。寒くて暗い部屋は、たいてい床とか壁とか、床そのものが劣化して剥がれてきていたりしている。だから掃除しても成果が上がらない。そうなると、掃除をやろうという気持ちにならなくなる。

-モノが増えて汚くなっていく。人の心がすさんでしまっているかのようだ


昆氏 中学生の女の子がいじめで自殺した物件があったが、この家は玄関に入ってすぐに階段がある家だった。このような間取りでは、子供が帰ってきているかどうかもわからない。暮らしているうちに、子供に対する関心が低くなっていった可能性がある。建築医学ではこのような家は作らない。必ずリビング通って階段、という設計にする。間取りは結構大事だと思う。近年の建売住宅などは悪い間取りの典型で、その人の人生が良くなるか以前の問題だ。狭いスペースに何件も入れて、狭い敷地でいかに大きく建てるかという発想になる。ゆとりのある間取りではないから、住む人はゆとりのある未来を描けない。いい間取りにするには前提として、ある程度の人が寛げる広さが必要だ。

アウトレット不動産 リフォーム後の物件の例

―アウトレット不動産で住宅を購入するユーザーのニーズは


昆氏 当社が扱う物件はほとんどフルリフォームしていて、建築医学でリフォームすると結果として女性が気に入ることが多い。建築医学に沿った形でマンションでは制限があるが、曲線化はできる限り行う。照明については白い光はほとんど使わない。キッチンは蛍光灯になることもあるが基本的には電球色にすることで寛げる空間を作っている。蝋燭の炎に近い光の色だ。リビング、寝室も電球色。壁紙は真っ白いものは一切使わず、暖色系の色をアクセントで必ず入れる。これは予算に応じてだがダウンライトも入れる。夜は明るすぎない方が眠れやすくなる。ただしほとんどが業者の客で、建築医学に基づく設計をしたという張り紙はしていても事細かに説明はしてない。いいという人もいれば白の壁紙がいいという人もいるし個人差がある。 


-事故物件を買いに来る人はどのような人なのか


昆氏 事故物件に対してそこまで心理的抵抗感がない人だ。職業でみると葬儀業の人とか、看護師とか、死に近い仕事に携わっている人が多い。あとは家にいる時間が短い人。運送業とか。それ以外の職業はバラバラだ。職業以外で自死に対して理解のある人、身内に自死された方がいるとか、そういう特徴があるように思う。物件案内の前に事故物件を承知の上で見に行くことになる。全体的には買い手は増加傾向にあるし、今当社の手持ちの物件は「港南台」しかない。一方で「告知あり物件」の情報は減っている。その理由は、事故物件でも買い手がいてマッチングできるからと、事故物件の取り扱い業者が増えているからかもしれない。

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横浜市内の昆氏の自宅リビング

 昆氏の自宅を案内してもらった。自宅のある場所は横浜の郊外にある整然とした低層住宅地で、南西傾斜地。建築医学の考え方に基づき、建築医学協会にお任せで建てたという。内部の空間は蛍光灯を使っていない。すべて電球色で暖かみのある雰囲気の空間を作っている。よく見ると壁や天井、造作にはカーブが目立つ。「直線が陽の気で曲線が陰の気だ。この家はあらゆる角を面取りしている。家は基本直線だろうが、ポイントで曲線にもできる。外観だと難しいが、内部はこういうカーブを少しでも多く入れることが、人の心に良い影響を与える」とのこと。加えて「五感の中でも視覚は大事。視覚は意識的なものより、無意識に入ってくる情報量の方が大きい。人の心の特徴としては、心は染まりやすいので住まい環境はできる限り、暖かい色、明るい色、温もりを感じる色にすると、その色に心も染まっていく確率が高くなる」(昆社長)という考えだ。

建築医学に基づく配色・面取り

 ではこうした建築医学のアプローチを取り入れた物件はどのように流通しているのだろうか。昆氏は10月に成約した鎌倉市のマンションを例に挙げる。物件は建物の2階で、2年前に火災があった。入居者が亡くなったのは搬送先の病院だ。写真からも分かる通り、明るい色調のクロスに張り替え、曲線を活かした間取りにリフォームされている。

 火災物件のリフォームをどのように行ったのだろうか。「火災 になると大量の煤(すす)が生じる。まずそれを綺麗にし、壁紙と床材を全て除去しスケルトン状態にしてから、リフォームを行った。リフォーム工事は1ヶ月以上をかけた」(昆社長)。この物件の出火元はリビングで、焼けたのはリビングの一部と廊下ぐらいだったが、煤 は部屋全体に回っていた。昆社長は「リフォームは火災現場になると工期もコストもかかる。販売期間は1年掛かった」という。

曲線と明るい色使いが特徴(鎌倉市内)

そもそもこの物件の所在地は最寄りとなるJ R大船駅から歩くとかなりの距離がある。たとえ事故が無かったとしても、成約にはそれなりの時間を要したと思われる。

 成約価格は1480万円。実際の相場とはどの程度の乖離なのだろうか。ちょうど1階上の同じタイプの部屋が売られていた。売主は買取再販業者で、アウトレット不動産と同じ「フルリフォーム済」物件で、値付けは1780万円だった。300万円の値付けの差をどう見ればいいのか。3階の物件は事故物件ではないし、階高も上であるため、不動産そのものの価値は上であるはずだが、これが事故物件と非事故物件との差と言えるのかどうか。

鎌倉市内の火災物件を建築医学に基づきフルリノベーション

 死因による評価の違いもある。死因が自殺と孤独死なら、孤独死の方が嫌悪感は低い。さらにこの物件の場合は火災はあったものの、人が死んだ場所は別だ。そういう場合は評価がそこまで下がらないこともある。そもそも事故物件とはいえ、不動産であるから立地が評価に大きく影響する。「供給が少ないエリアで、事故物件しか売り物がなければ、ユーザーはそれしか買えない。過去の事例で、相場と変わらず売れたこともある」(昆社長)。事故物件の所在地が都市部の人気のエリアであれば、事故を気にするよりも、仕事などの関係で利便性の方に重きを置かれるのかもしれない。

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