【2021年基準地価】⑤不透明感拭えない福岡のオフィス市場(上)
天神交差点付近 左奥が天神ビジネスセンター

 地価公表資料だけ見れば「好調」

 9月に公表された2021年基準地価によると、全国の商業地の上昇率の1位〜4位までを福岡市内で占めた。調査結果だけを見れば、新型コロナウィルス流行による人流抑制の影響を受けた大阪・なんばや、東京の商業地などと比べると、市況は好調なように見えるが、実際のところはどうなのだろか。

 全国の商業地の上昇率トップとなったのは、博多区綱場町9-28(博多蔵本ビル)の地点で15.8%の上昇。続いて博多区冷泉町5-32(オーシャン博多ビル)が15.1%、中央区高砂2-6-23(ストゥーディオ南天神)が15.0%、中央区舞鶴1-4-30(舞鶴パークビル)が14.7%、それぞれ上昇し、福岡が全国商業地の上昇率の1~4位を占めた。上昇した地点はいずれも繁華街ではないオフィス用途の場所だ。福岡都心の繁華街では中洲の地点は下落している。福岡のオフィス市場はコロナ流行の20年以前までは、新規供給の少なさとテナントの退去も少なかったことから、稼働率が高止まりし流動性が低かった。土地取得環境としてはホテルや住居系との競合も激化。そのため取引価格が上昇、福岡はさながら不動産バブルに近い状況だった。

 ところが新型コロナの流行により状況は一変。コロナ禍を受けてオフィスからはテナントの事業縮小・撤退が相次いだ。福岡のある不動産仲介事業者によると、「20年は縮小移転が目立った。ただし20年秋以降は積極的な拡張移転も増え、今は成約と解約は半々の水準にまで戻している」とのこと。一方、コロナ禍で目立ったのは、オフィスビルの募集賃料の大幅な上昇だ。ねじれの要因は何なのか。「リーマンショック後の市況悪化の中で、満室状態だったビルで数年ぶりの募集が発生。例えばそれまで坪7000円程度だったのが、新たに募集を始める際は1万2000円〜1万4000円程度に大幅に上がった」(先の不動産業者)と、需給は芳しくないのに、全体の賃料が押し上がった理由について解説する。

 稼働率ゼロで竣工の博多のビル

 足下の懸念材料としては、コロナ禍以前に着工した新築ビルがどんどん竣工しており、中には竣工後数ヶ月も経っているのに、稼働率が半分以下という物件が珍しくない。そもそも地方都市は福岡レベルの都市規模でも、大手企業が入るような100坪クラスのまとまった面積の物件は苦戦しやすい。基準階床面積100坪超の大型ビル「TーBuilding HAKATA EAST」(博多区博多駅東3)は、坪1万7000円で募集。天神地区の「天神部ビッグバン」と並ぶ博多駅周辺の「博多コネクティッド」案件だ。ただし現場ではリーシングに苦戦しており、21年4月竣工から半年経ったにも関わらず、2〜3割程度の稼働状況だ。

 コロナ前に発生した福岡の「土地バブル」が影響し、2021年竣工予定のビルの面積は小ぶりなものが多い。竣工済みを含めると博多区・中央区で15棟以上のビルが予定されている。この中で注目すべきは「空室率100%」ビルがあるということ。その代表例が「パークフロント博多駅前一丁目」。すでに8月に竣工し、3ヶ月が経過したが空室率は100%のままだ。このビルの評価は「立地も設計も契約条件も無理がある」(博多の不動産業者)。リーマン・ショック直前のミニバブル期に、魅力度に劣るビルが供給され市況悪化を加速させたが、この時期とシンクロしているような状況が今の福岡のオフィス市場だ。

【2021年基準地価】⑥不透明感拭えない福岡のオフィス市場(下)へ続く

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