過渡期としての2022年 東日本国際大学客員教授 森田浩之
東日本国際大学客員教授 森田浩之

 

続く不透明感 個人の行動にかかる日本の今後

個人的な感覚だが、2022年を迎えるにあたり、今年は例年のわくわく感がなかった。かといって、昨年初ほど沈滞した雰囲気でもない。むしろこの2年くらいの低空飛行に慣れてしまったということだろう。

2020年を目前にした2019年末は、翌年の東京オリンピックが待ち遠しく、新しい時代が拓けてくる希望に充ち溢れていた。一転して2021年に向かう年末は感染者増加で重々しい空気に包まれていた。昨年末は感染者数は少ないまま推移していたが、昨夏の記憶が生々しく、一気にコロナ前を取り戻す勢いに欠けていた。

私は感染症の専門家ではないが、報道などから推測するに、昨秋からの感染者急減の90%はワクチンの効果だと感じている。残りのうち5%は感染拡大の入り口とも言える飲食店に期待したほど客が戻っていないこと、最後の5%は飲食以外での会話におけるマスク着用が定着したことと解釈している。

だから日本に限って言えば、この状態が続くかどうかは、ひとえにわれわれの行動にかかっている。いままでの振る舞いを続けられれば感染者数は大幅に増えることなく、少しずつ経済が活性化してくるかもしれない。しかし一度、感染が拡大すれば、昨夏の悪夢が再現されるかもしれない。

その意味では、今年は「前門の狼」と「後門の虎」に悩まされるだろう。前門の虎はオミクロンで、後門の虎はインフレである。昨年12月から欧米で感染が再拡大している。重症者数ではなく、感染者数で言えば、この2年近くの記録を更新して、最多になっており、いくつかの国は国民の反発の強いロックダウン(都市封鎖)に踏み切った。

海外の情勢を踏まえて日本にできることは、水際対策、ワクチン接種、マスク着用の継続である。昨年末から国内でもオミクロン感染者が現れてきたが、鎖国に近い入国制限を厳格に実施すれば感染を抑えられることは、2020年当時のニュージーランドの成功が示している。しかしこれはビジネスでの往来を止めることになり、感染対策と経済の両立という永続的難題に直面する。

経済回復が国民に打撃を与えるおそれ

同時に、私の解釈が正しければ、ワクチンには絶大な効果があるから、3回目の接種が感染抑制のカギを握る。昨年春から夏には先進国中最下位の接種率が、年末にかけてダントツトップに躍り出る日本人の効率性を発揮すれば、時間との闘いに勝つことは難しくない。そして従来のマスク着用が重なれば、感染の爆発的拡大を防ぐことは可能だ。

しかし一方で、捕らぬ狸の皮算用ではあるが、もし幸運なことに感染が収まり景気が回復したら、それはそれで後門の虎が襲い掛かってくる。景気が良くなれば、経済活動が活発になり、エネルギー需要が増える。当然、化石燃料を輸入に頼る日本にとっては、燃料費の高騰が始まりかけた景気回復にブレーキをかけてしまう。

ただし、感染対策は鎖国を許容するなら一国で完結するが、インフレはむしろ国内発というよりは輸入されてくるものである。昨年末からアメリカでは、複合的要因でインフレが加速している。連邦準備制度理事会によるテーパリングが早められるだけでなく、2022年には数回の利上げも検討されている。もし経済法則どおりに動けば、円安ドル高になり、エネルギー価格に加えて、食料などの原材料価格まで高騰する。

インフレが危険なのは、いまの日本のような緩やかなデフレ下では、日銀の行動が制約されかねないことである。市中の国債を買い取るという、事実上の通貨増刷は金融政策で作為的にインフレを起こす試みだが、民間市場で物価が上昇している最中に調整インフレを継続すれば、一部に資金が溜まるという歪んだバブルを引き起こしかねない。

この資金が金融市場に安定的に入り込めば、株価の上昇と設備投資の促進という好循環を生み出せるが、設備投資という実物経済ではなく、経済の実態とかけ離れた投機的な動きを助長することになれば、目前のニュースに過剰に反応する金融市場の悪い面が表に出て、株価が乱高下し、金融市場を混乱させるかもしれない。

仮に金融市場が平穏でも、エネルギーと原材料価格の高騰は、賃金が上がらない現在の緩やかなデフレ下では、家計には大きな痛手になる。コロナ禍の苦境が増幅することで、国民の生活はさらに苦しくなっていく。

岸田政権の真価が問われる7月

結局、前の菅政権が退陣せざるを得なくなったのは、コロナを甘く見ていたからであろう。感染者数が増えると支持率は下がるが、感染者数という自分ではコントロールできないことで、自分への支持が減るという逃れられない底なし沼にはまってしまった。

この点、岸田政権にとって感染者激減で昨年の衆院選を戦えたことは、幸運以外の何物でもない。ということなら、今年7月の参院選こそ、本格的な試験となる。参院選は政権選択選挙ではないが、古くは1989年の宇野政権、1998年の橋本政権、そして2007年の第一次安倍政権と、参院選で退陣を余儀なくされた政権は結構多い。岸田政権には試練の年になりそうだ。

2022/1/5 不動産経済Focus &Research

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