新時代の管理運営を探る㊿新時代のマンション管理を体感できる あなぶきPMアカデミーTOKYO(上)飯田太郎(マンション管理士/TALO都市企画代表)


マンションが本格的に普及してから半世紀が経過し、高経年マンションが増加しているが管理組合による再生に向けた動きは低調である。むしろ管理組合が機能しないで管理不全に陥るマンションの増加が懸念されている。こうした状況を背景に自治体による管理計画認定制度と、マンション管理業協会が定めた評価項目で管理状態をチェックする管理適正評価制度が2022年度にスタートする。管理会社にも新たな期待が寄せられる。管理委託契約等のもとづく管理業務を確実に実施するだけなく、受託先のマンションの居住性や資産価値の向上等に必要な方策を、積極的に提案する力を備えることも求められる。管理会社が新たな能力を備えた人材を育成するために開設した「あなぶきPMアカデミーTOKYO」を取材した。


 あなぶきPMアカデミーTOKYO(以下PMアカデミー)は、穴吹ハウジングサービスが設置した社員研修施設で神奈川県認定職業訓練校でもある。川崎駅に近い7階建てのビルに様々な機能が配置されている。
 各マンションに配属される管理員やフロント社員等は、この施設でマンションについての基本を学ぶ。新任の管理員は企業理念、設備実習、建築実習、法令関係、CS、個人情報保護、防災、高齢者対応、清掃等を2日間・約12時間の研修を受けることになる。
 その中心になるのが4階の「マンション維持再生のフロア」である。マンション生活を支える電気、消防・インターフォン設備等について実際に操作して学び、清掃用ポリッシャーの使用法や換気ダクトの清掃法等も身につける。基礎的な研修だけでなく、劣化したマンションの外壁、屋上防水、給排水管等のイメージを再現したエリアで修繕工事や改修工事について理解を深めることになる。外壁タイルの落下事故等を防ぐうえで重要な打診による劣化状況の把握等、見えない箇所の見える化により問題を知る仕組みにも力を入れている。
 6階の防災スクエアでは差し迫った課題である防災力向上について具体的な展示を行っている。例えば5日間、100人分の水・食料等を備蓄した防災倉庫を再現することで、50戸規模のマンションで管理組合が備蓄する場合に必要なスペースを知ることができる。そのためのスペースを確保できないマンションでは、各戸ごとに備蓄する必要がある。
 3階の「リノベーションとコミュニケーションのフロア」と5階の「未来住宅のフロア」では、専有部分と共用部分の新しいイメージを、モデルルームのような形で示している。高齢化に対応するユニバーサルデザインのリビングルーム、IT等の先端技術を利用したLDKやベッドルームとサニタリー、これまでの集会室のイメージを一新する居住者が空間をシェアするコミュニティスペース、顔認証によるオートロックドアを備えたエントランス等は、マンションを長寿命化し「終の棲家」とすることが大きな課題となっている現在、従来の維持管理の枠を超えた発想力、提案力を育てることになる。
 屋上のソーラー発電スペースに設置した太陽光発電パネルは、発電状況を確認するエレベーターホールのモニター、1階駐車場のEVカー充電ステーションとともに、地球温暖化対策や災害時の電力確保に必要な新しい仕組みを体感することができる。
 PMアカデミーの大きな特長の一つはホールやプレゼンテーションスペースが充実していることである。6階の「アルファあなぶきホール」は最大150人収容可能な大型スクリーンを備えたスクール形式のホール。7階のプレゼンテーションルームはTV会議システムも利用できる。この他の各展示スペースでもそれぞれ映像を使いながら少人数の打ち合わせができる。
 PMアカデミーは社員のための研修・教育施設だが、管理組合等の社外のマンション関係者が利用することも想定している。実際に管理組合の研修等にも利用されているという。マンション管理に関係する業務は、管理業務の受託者として実務を担う管理会社のスタッフと、委託者である管理組合と区分所有者が同じ内容、同じレベルの知識を共有することが望ましい。PMアカデミーは管理組合や区分所有者が、マンションについての知識を取得し、自分たちのマンションの現在と将来を考えるための場でもある。

 新時代の管理運営を探る㊿新時代のマンション管理を体感できる あなぶきPMアカデミーTOKYO(下)へ続く

2021/9/5 月刊マンションタイムズ

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