ワクチン接種の進展により経済活動を再開したアメリカは、変異種による感染再拡大のリスクを意識ながら、日常生活を取り戻しつつある。浮浪者が徘徊していたマンハッタンのタイムズスクエアはマスクなしの観光客で賑わい、道路もいつも通りの渋滞だ。街に人と車の流れが戻り、マンハッタンはいつもの夏を迎えているように見えるが、すべてが元に戻ったわけではない。感染拡大の一因とされた地下鉄の利用率は、パンデミック前の半分程度にとどまる。ワーカーのオフィスビルへの戻りは鈍い。最悪期の5%からは増加しているが、テナントのオフィス使用率は20%前後で、現在でも在宅勤務(Work From Home=WFH)が主流だ。オフィスの空室率は過去最高水準まで上昇、募集賃料も下落傾向だ。
一方、ホワイトカラーを中心として雇用は回復、大手企業は夏休み開けの9月には、従業員を段階的にオフィスに戻す計画(Return to Office=RTO)を発表している。新規のオフィスリーシングも増加傾向で、今年下半期にはオフィスマーケットのセンチメントが改善するとの期待感があるが、変異種の再拡大が懸念要因だ。
オフィス市場は
緩やかな回復の兆し
オフィス勤務のホワイトカラー層の雇用は回復、オフィス賃貸マーケットも活発化しているものの、回復には至っていない。マンハッタンの第2四半期のオフィスリース成約面積は310万平方フィート(約8万7000坪)と、第1四半期比で14.1%増加、パンデミック以降最大の成約面積となった。2020年上半期トータルではリース面積は590万平方フィート(約16万5000坪)と2019年実績の70%水準まで回復した(C&W調べ)。
しかし、既存テナントスペースの縮小が新規リース面積を上回り、空室率は前四半期比で2%上昇。募集賃料は前四半期比で3%下落した。パンデミック前には10%程度であったマンハッタンのオフィス空室率は、第2四半期末で過去最高水準である18%まで悪化。同様の空室率上昇に伴って、金融危機時には募集賃料が30%程度急落したが、今回は10%程度にとどまっている。ビルオーナーはオフィス需要の回復を期待して、フリーレント等の付帯条件を拡大することにより募集賃料の下落幅を抑えている。
RTO計画の進展がオフィス市場回復のカギ―懸念材料は変異株の感染再拡大(下)へ続く
2021/7/28 不動産経済Focus&Research