近郊・郊外部の苦戦要因は立地に対する割高感
「無理なく買える価格」へのメリハリも重要
2020年の首都圏マンション市場は、1年を通してウィズコロナのマーケットだった。しかし住宅産業に関しては、マイナスの影響が他の産業と比べて軽微にとどまった。年後半からはコロナの影響で賃貸脱出志向が強まるなどプラス面も見られた。どんな物件が好調で不調だったのか。足元の傾向などを見た。
立地とグロス価格のせめぎ合い ―2020年首都圏分譲Mの好・不調要因(上)より続く
近郊・郊外部において販売を苦戦する物件と好調な物件に分かれている。都下エリアで見ると、両者とも沿線力や駅力に差はない。いずれも都心直通の近郊エリア、高駅力で供給されている。好調物件は駅距離が平均6.5分、物件規模は小規模・極小規模、平均坪単価260万円、平均価格は4300万円に対して、不調物件はそれぞれ9.4分、中~大規模、290万円、5800万円。好調要因は立地とグロス価格、苦戦要因も立地とグロス価格の割高感であり、都下では立地の良し悪しに加えて、グロス価格の設定が非常に重要な鍵を握っている。神奈川エリアは、好調物件の方が平均単価、平均価格とも高く、好調の要因は立地だ。神奈川は高単価水準のため、高単価でも高い駅力・駅近で、グロス圧縮商品が好調。立地の割に割高感が拭えない物件は、不調につながる流れだ。埼玉と千葉は、いずれもグロス圧縮商品が好調。駅距離10~15分、バス便でも好調で、たとえ立地が劣っても面積を絞り、買いやすいグロス商品は好調を維持。高グロスでも沿線力とマーケットにおける購入者の体力が高ければ、好調に推移している。
2020年の首都圏分譲マンションの販売状況は全体的に好調だった。特に、2019年以前にスタートした、継続販売物件やクリアランス物件に割安感が出て販売が好転した事例が見られた。一方、2020年にスタートした新発物件は、立地力の高い物件は高値でも販売好調、立地力が弱い物件が割高感で苦戦するなど、価格が上昇するなか、立地力の差が販売の優勝劣敗を決めている。ただ、立地が弱い物件でも、3000万円台の商品は販売好調、郊外でも60㎡台のグロス圧縮商品の好調事例が増加しており、広さ志向が強かった郊外においても上昇した単価を吸収するためのグロス圧縮型の商品企画が販売好調のポイントだ。
2020年の売れ行きの特徴として、郊外一時取得向けファミリー商品の売れ行きの好転が挙げられる。これは、コロナで在宅時間が増加したことによる賃貸脱出志向の高まりがプラスに働いたと見られている。パワービルダー系の割安な建売戸建てが販売好調だったことからもわかるように、「無理なく買える価格」が重要で、立地力が高い物件は価格上昇を乗り越えられるが、立地力が弱い場合は、この条件が満たされないと地元顧客に受け入れられずに販売苦戦につながる。今後、郊外でもマンション用地の取得競争の激化が予想され、これまで以上に精緻な事業計画が求められる。郊外の売値に関しては、立地力に合わせて高めるのか、「無理のない価格」に抑えるのか、価格設定には相当のメリハリをつけることが重要となることは間違いない。
2020/2/15 不動産経済ファンドレビュー