シリーズ;東京「人口減」をどうみるか⑤に続く ポストコロナ時代を迎えて賃貸需要、賃貸市場がどう変化しているか、転居需要をどうみているか。不動産賃貸仲介大手のハウスコム(東京・港)の田村 穂社長に話を聞いた。
―今年に入って1月から3月まではどうだったか?
田村氏 問合せ自体は前々年以上で推移しており、1月に入った瞬間から増えた。緊急事態宣言をする・しないで若干問合せ自体は減るように見えるが、来店は減るものの、問合せ自体はある程度ずっと高いレベルで推移していた。問合せ・申込みとも4月に入って減ってはいるが、本来、繁忙期が終わりに近づくにつれ減っていくものなので、特に不安視はしていない。去年はこの週、4/12~4/18とその前の週くらいから、緊急事態宣言で一気に落ちていったが、今年は問合せ・新規来店者とも、昨年に比べれば多い状況だ。
―反響は去年と全然違う
田村氏 2020年の1〜3月は、3月から新型コロナの影響を受けて一気に落ちていった。その前の(2019年の)11〜12月は結構トップランと言っていいほど良かっただけに、その差は大きかった。それに比べれば、全く違う。問い合わせが急増したのは、引っ越しに対しての何かしらの、言うなればインセンティブが働いたということだと思う。例えば、「一人暮らしの狭い部屋から住み替えて二人で住みましょう」という需要は非常に多い。結婚式は延期したが、入籍をして新居で新生活を始めようというカップルの方はその代表例と言えるし、入籍は関係なく、広い部屋でパートナーと暮らし始める人も多くいる。また僅かではあるが、離婚を理由に部屋探しをする人もいる。それまでにもなかったわけではないが、より様々な理由で、かつ明確な理由による引っ越しが目立つようになってきた一年だったと言える。
引っ越し理由の明確化と多様化は、部屋探しのパターンやあり方もさらに多様化していくことにつながっていくと思う。広いところに住む、家族と離れてコンパクトな部屋に住む、郊外に住まいを移す人がいる一方で、あえて電車通勤を避け職場の近くに住む人もいる。そういう意味で、今までは進学や転勤に伴う理由が殆どであったこの時期の部屋探しについても、猛スピードで多様化が進んでいると言えるだろう。海外からのユーザーは殆どではないが止まっている状況だ。今後新型コロナウイルスの状況が改善するとともに、日本へ戻ってくる人が増えるタイミングで、一気に回復すると考えている。時期はインターナショナルスクールなどの学期のタイミングにも左右されため、明言はできないが。
―法人需要はどうか
田村氏 2020年度は、法人の動きに関しては完全に止まっていた。いまも動きは弱いが、ここが動きだせばちょっと変わってくるのかなと思っている。例えば飲料水系の業界について、東京では動きが止まっていたのが、大阪の方では動き出したようだ。業界によっても法人の動きがだいぶ変わっているようだ。
―法人需要は地域差があるということか
田村氏 特に大きな工場を抱えているエリアは会社の状況によって、需要の動きも大きく変動する。例えば群馬とか北関東がこの1〜3月、去年からそうだが調子がいい。愛知県の三河地方も一時はダメだったのが上がってきていますし、なかなか数字の上がってこないエリアではそこにある大きな企業の業績悪化が報道されるなど、企業の状況と人の動きには密接な関係があるということがここでも推測できる。全般的には、いわゆる企業城下町と言われるエリアでは、法人需要は非常に動いてきている。
―コロナで東京とか都市部ではなく、地元に人を配置している企業もある
田村氏 なるべくそこでできる仕事、本社機能でもそこでできる仕事という考え方が浸透し始めているのではないか。法人の考え方も変わってきているので、法人がどう戻ってくるかというのは課題の一つになってくると考えている。ただし、法人担当者によると、直感的な部分もあるが3月まで止まっていたのが、4月頭でドーンと増えているようなので、これからまた一気に動き出すかもしれないが。
―現状で東京の法人需要が回復しているという感じはない?
田村氏 全然追いついていないと現場からは聞いている。大阪も追いついていない。ただし、あくまでも当社での話ではあるが、現時点では大阪の方が若干いいという話も聞いてはいる。
―地域毎で見ていくと東海地方はどうか
田村氏 東海はあまり良い状況ではない。先ほども申し上げた通り、愛知県の三河地方は若干良かったが、名古屋市内は、当社だけかもしれないがまだまだという状況。東京都内や23区内もまだまだだが、全体的には前々年並みに近づいてきている。ただ法人だけは、まだ回復していない。法人がこの4月以降どういう動きをするのかというのが課題だ。北関東については群馬を中心に好調だ。
―法人需要はどう予測しているか
田村氏 法人はある程度は動き始めるのではないかというのが当社の見立てで、2019年レベルに戻せるかどうかは別としても、ある一定の人の動きは出てくると考えている。結局、今のテクノロジー下でのリモートワークに関する限界が見えてきているので、それを反映した企業の考え方なども影響してくるのではないか。根拠になる話があるわけではないが、企業にとって、組織の異動はそれぞれ意味があったからこそ繰り返されてきていたわけで、それをニューノーマルの考え方で全部ひっくり返す企業ばかりではないと思っている。
―あとは大きな需要として学生があって、去年の10、11月はいろいろ様子見があったということだが今はどうか
田村氏 個人的には、学生の需要はそんなに上がらないと思っている。秋の推薦入試シーズンで様子見していた方が、じゃあ本試験となった時に、東京の大学を受けるかというと、どうなのか。新型コロナで様子見していた人たちが、やはり東京を選ぶ可能性もないわけではないとは思うが、そういう人たちは地元、通える大学に志望校を変更しているのではないだろうか。
―ちなみに繁忙期の学生の動きはどうだったか
田村氏 やはり、例年より鈍い。学生需要ですべてをまかなっていたような地域は落ち込んでいる。その一方で、単価が上がっているようなエリアもある。例えば、お姉さんが既に上京していて、弟さんも東京の大学に入りますよというパターンでも、これまでであれば別々に部屋を借りて住んでいたところが、「じゃあ、お姉ちゃんも引っ越して、ちょっと広い部屋でそれぞれの学校の中間地点に住みなさいよ」となる需要も多くはないが少しずつ増えてきている。オンライン講義のみになったことで学校に通わず実家に戻った学生がある程度いて、それが落ち着いてきたからまた学校の近くに部屋を借りて通うようにするというところまでは、まだいっていないのではないか。
―法人とか学生ではない一般の社会人はどうか
田村氏 結構動いていると思う。おそらく賃貸仲介以外の業界も悪くないのではないか。2019年と比べてどうかというという部分はあるが、去年のイメージのように止まっているという感じはない。問合せ自体は増えているので。
―問合せがまず回復してきているということで、それはいずれ成約に結びつくという見立てでいいか
田村氏 その通りだ。問合せは前前年比で120~130%、申込みそのものは110%程度という状況になっている。こうした流れの中で、まだギャップはあるが、ある程度部屋を探している、転居を伴う何か本人たちのインセンティブが働いて、行動を起こしはじめていると見ている。もしかしたら学生なのかもしれないし、リモート化による転居なのかもしれないし、パートナーと住む、別れるなどいろいろなパターンがあるにせよ、問合せ自体は増えているので。