シリーズ;東京「人口減」をどうみるか⑦ 有効求人減で23区の需要減、オンライン内見はインサイドセールスとして有効ーハウスコム・田村穂社長

シリーズ;東京「人口減」をどうみるか⑥に続く ポストコロナ時代を迎えて賃貸需要、賃貸市場がどう変化しているか、転居需要をどうみているか。不動産賃貸仲介大手のハウスコム(東京・港)の田村 穂社長に話を聞いた。

―東京の人口動態について。東京の去年の7月以降は東京都全体でみても、特別区23区だけ見ても転出超過というのが続いているということで、多摩と周辺3県は入超の状態だ。

田村氏 厚労省や大手の調査機関が発表している有効求人倍率と連動した、雇用状況に応じた人の流れが出ていると考えられる。企業城下町エリアに限らずとも、求人と部屋探しは近しく、結構相関関係があるのかなと思っている。東京は、有効求人倍率もまったく回復しておらず、東京の人口動態も減っている。当社独自の分析をしているわけではないことを前提とした話になるが、特に秋口から東京からの人口が流出し、周辺3県に流れる現象が起きている。なお、名古屋圏についても同じ現象が起きていると言える。

―有効求人倍率の動きをどうみるか

田村氏 去年の11月くらいから回復をする県と、回復しないまま下振れしている県とがある。11~12月とトレンドとしては変わらないということを分析しているので、そこが回復してくるとまた変わってくるのか、もしかしたらもう東京集中はなくなって地方で働くことが一般的になるのか、現時点では不確定だ。実際に、地方は上がっていたりするので、そのまま東京に戻ってこない可能性もある。賃貸住宅のマーケットに関しては、問合せ自体は来ているので、東京に戻ってきたいという意識や意欲はあるとは思うが、ただ現状では東京、特に23区は回復していない。郊外は当社の業績だけ見れば、上がってきていると言える。ただし、すべてのエリアで前年は超えてきているため、特に郊外が好調とは言いきれない。

群馬エリアは非常に数字が良い。特に太田店は絶好調だ。調査機関が発表している雇用状況に関する県別データで東京を見た場合も、東京はずっと下振れしていて上がってこない状態だが、埼玉とか茨城、群馬が上がっており、当社の売上ともリンクしている。
また、宿泊業と飲食業の割合が高い都道府県ほど雇用環境が悪くなっているが、当社の業績的にも東京の特に23区が悪く、郊外の方がいいという部分に当てはまっていると思う。東京に関しては、この飲食系とかホテル系とかそういうサービス系の人達がどう動くかによって変わってくるのではないだろうか。

―東京はサービス業が多い

田村氏 名古屋でも同じことが言える。名古屋も回復してきておらず、飲食業で雇用環境がグーっと下がっている状況だ。東京23区や名古屋市内など、人が集まり、サービス系の需要があるところでは有効求人倍率がまだ戻ってきていない。これが戻ってくれば当社としても良くなるのかなと見ている。

―コロナの動きを受けて賃貸住宅市場のニューノーマルはどういうものがあるか。

田村氏 当社ではコロナの前、2015年くらいから部屋探しのオンライン化に向けた整備を進めてきている。またIT重説、重要事項説明をオンライン化しましょうという政府の流れにも積極的に対応してきたし、私も常々、問合せから申込み、契約まで一気通貫でオンラインにできないか、ということを言ってきた。このため、去年の4〜5月のリモート化の流れにすぐに対応、切り替えができたのは、我々にとって大きな強みになったと言える。もっとも、新型コロナによりオンライン内見のニーズは高まったものの、実際に使ってみると、入居を希望する人が部屋を見るという行為、触れるという行為、その場所に実際に立ってみるという行為は、どうしてもオンラインではカバーしきれないこともわかってきた。
 オンライン内見やオンライン案内といったものは、リアルな案内の代替品となると思っていたが、顧客心理的にやはりどうしても代替できないところがあり、結局オンラインのみで全てを決定することはできない。ただし、その中で、ユーザーの状況と要望に合わせてオンラインを活用していただくという流れはできたと思う。

―実際の内見でオンラインを選ぶ方はそんなにいないとなると、どういうツールとして利用できるか

田村氏 オンライン内見については、あくまでもお客さんの納得度を上げるとか、見極めるためツールとしては極めて有効であることがわかった。よく言うインサイドセールス、当社ではインターナルセールスと呼んでいるが、それを高めるための強力なツールにはなる。業界全体として、この方向にどんどん進んでいくのではないだろうか。そして、申し込みの後、事務的なバックヤードのところはオンライン化とかペーパーレス化、判子が無くなっていくことが進んで、もっとユーザーにとって利便性が良いものになっていくと思う。顧客にとってより納得度の高いような流れになっていけば、当社としても全体のコストがかなり削減できると感じている。

 話をしながら部屋探しを進めていくことそのものは、電話でもいいし、メールでもいいし、オンラインでもいい。いずれにせよ、そこでユーザーの納得度をより高めることのできた会社が勝つ、そういう流れになっていくと考えている。ただし、全てがオンラインにはならない。もちろん、実際に物件に足を運ぶことなく、オンラインのみで部屋を決める人たちも、法人を含めて一定数はいる。ただし、それとは別に、やっぱり一回は見ないと、騙されているのではないかとか、納得がいかないとか、もっといい部屋があるのかもしれないと思うユーザーも、今後も必ずいると考えられる。

―その「必ず見る」需要は何%くらいか?

田村氏 感覚的には9割を超えている。これだけオンライン環境を整えていても、やっぱり「見る」作業、最後に見て判断するところだけは譲れない部分なのだと考えられる。当社としても、個人の感覚の差があるため、ちょっとイメージと周辺環境や広さが違うなどといったトラブルを避けるために、お時間があれば一度見てください、というアナウンスはしている。子供が入学する学校の雰囲気をはじめとする、この目で見て聞いてみないとわからないような感覚的な情報、お金や時間などのコストを掛けてでも現地近くに足を運ばないと手に入らない情報というのはたくさんあるし、実際にコストをかけてでも見に行くというユーザーが圧倒的に多くなっている。逆に、コストをかけなくてもいい情報は部屋のスペックのところだ。家賃だとか、駅から何分だとか、バス・トイレが別だとかいった部分についてはそんな大きな間違いはないため、オンラインで判断できる。

―バックヤード的な部分は電子化を行う意味があるし需要はあるけれども、内見だけは変わらないと

田村氏 ここは、まだそれに替わるテクノロジーが出ていないのだと思う。ユーザーが触らないで、においを嗅がないでも決められるだけのもの。情報が自分の感覚以上にならないとダメなのではないだろうか。これが逆転した時に、「実際に見ないでも大丈夫」な世界が始まることになるのだろうが、それにはまだまだテクノロジーが追い付いていない状況なのだと思う。あと、情報が多すぎて、何が何だかわからないという部分もある、だから見て判断するしかないというユーザーがいらっしゃるのも事実だ。コロナ禍なので現地には行きません、どうしても仕事の関係で現地に行けない、時間がないという方もいらっしゃるが、当初想定したイメージほど完全なオンラインでの対応を希望される方が増えたということではなかった。

―長期的には

田村氏 今後 5G のインフラ環境が整えば、「デジタルの中にリアルがある」状態がさらに進むとは想定している。これに伴い、賃貸住宅市場についても、今はユーザーの多くがネットやアプリを使って物件を探しているが、それもさらに多様化し変わる時がくるはずだと考えている。当社としては、その時に最もユーザーの行動にコミットしたサービスをスマートに提供できる存在でありたいと思っている。

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