シリーズ;不動産の”正直営業”はどこまで可能か??③「正直不動産」原作の夏原武氏に聞く(下)
©️大谷アキラ・夏原武・水野光博 / 小学館「ビッグコミック」連載中

シリーズ;不動産の”正直営業”はどこまで可能か??②「正直不動産」原作の夏原武氏に聞く(中)より続く

不動産業界のみならず一般ユーザーへも人気が定着しつつある漫画「正直不動産」(小学館)。コミックスは紙と電子合わせて220万部を売り上げている(紙は発行部数、電子はダウンロード数)。4月からはNHKで連続ドラマの放送が予定されている。「正直不動産」の原案者である夏原武氏に、作品を作りだす過程で不動産業界をどのように見たのか、これまでの反響に対する受け止め方や今後のストーリー展開がどうなるのかを聞いてみた。取材には「正直不動産」を担当する小学館ビッグコミック編集部の田中潤・副編集長も同席した。

今後のストーリー展開について

夏原氏 話の大まかな流れは基本的には田中さんと脚本家の水野光博さんが考えているが、田中さんと二人で話しながら、最近ちょっと永瀬が売れてないから次どうしようか(笑)とか、いろんなことを話し合っている。あとは世の中の動きも常にチェックしている。民法改正なども頻繁なので、新しい制度にもついていかないといけない。漫画の中のドラマは、脚本の水野さんが考えている。そして人間関係の面白さとか、エピソードの本質と関わっていない場面でも、登場人物を生き生きと描くのは漫画家の仕事。漫画はいろんな要素が絡み合っていて、ネタだけでできるわけでは全くない。私がやっているのは原案という土台の土台であり、建物を建てるのは編集者と作家だ。漫画はいい具合に進んでいると思っている。漫画というものはストーリー展開にしても人物の成長にしても、漫画家でもコントロールができなくなることがある。キャラが勝手に動き出すところがある。そこが漫画の面白いところ。

©️大谷アキラ・夏原武・水野光博 / 小学館「ビッグコミック」連載中
回を追うごとに、永瀬の周囲も徐々に「正直」になっている印象だ

田中氏 主人公が周りにいい影響を与えつつあるのではないか。正直な不動産営業が徐々に実績もついてきて、永瀬がちょっとだけ出世した。将来転職しなければ「登坂不動産」の中でより重要な地位についていくのだろうと思う。ただし本人は、「正直な不動産営業」を目指しているのではない。嘘が付けなくなったから、仕方なく正直な営業をやっているに過ぎない。嘘をついて営業していた時代のように、もう一回バンバン売り上げを立てて、タワマン最上階に住みたいと考えている男だ。嘘がつけなくなっただけであるというのがポイントで、別に物凄くいい人に変貌したわけではない。ただ今は嘘がつけないから、正直にやってみたらいい結果が出た。そのことが徐々にわかってきた。今後いろんな成長があり得ると思う。

漫画に出てくる話は本当の話??

夏原氏 漫画を読んだ、ある著名な不動産コンサルタントから連絡を頂き、現実の不動産業界はもっともっと悪いですよ、とご指摘をいただいたことがある。だがあまりに悪い例を漫画にしてしまうと、漫画は嘘臭くなる。仮にその話が本当のことであったとしてもだ。そうなると意味がなくなってしまう。フィクションの漫画を読む人は、作りものを楽しんでいる。そこに物凄いえぐい話が入ると、読者は「そんなことはないだろう」と思ってしまう。本当のことでも嘘っぽい感じになる。社会派の漫画の場合は、咀嚼しないといけない。そもそも非常に悪い例というものは極端な例であり、実際に数があるかというとそうでもない。それよりもリアルで遭遇しかねない悪い例の方が読者のためにもなるし、ストーリーとしてもリアル感を出しやすい。あなたもこういう目に遭うかもしれませんよと。1、2のレアケースよりも、100でも200でもある方を取り上げた方がいい。

これまでの業者の取材は田中さんとお二人で?

夏原氏 営業マン個人に話を聞いている。この2年はコロナ禍で取材がしにくかったが、取材した人数は軽く三桁はいっている。田中さんと二人でも取材するし、元々僕はルポライターで取材が好きなので僕一人でもやる。田中さんの紹介で取材する場合もある。このところ業者から連絡をいただくことが増えている。東京だけでなく地方の業者からも連絡をいただくケースが多い。接触した人はブローカーのような人から、財閥系大手不動産会社の幹部にも会ってきた。取材活動はこれまでずっと行ってきたことで、普段やっていることの続きに過ぎない。私はそもそも経済系の話が好きだ。お金が絡むと本音がでる。マルチ商法とか詐欺師とかに興味があって、ルポも随分書いてきた。お金が絡むと人の本性が出る。

NHKドラマ化の経緯について

田中氏 単行本が出た直後から途切れることなく映像化の依頼がきていた。これまでテレビ局や制作会社などから60企画もオファーを貰い、その中でNHKに決まった。60件という数は、異例の多さだ。

ドラマ化への期待について。どういう新しい反響があるだろうか

夏原氏 テレビドラマになるのは素直に嬉しいこと。映像化は最終目標ではないにしても一つのご褒美だと思っている。漫画をまだ読んでない人がこれを機会に手にとってくれるかもしれない。僕らもドラマを見ることで違う見方ができて勉強になる。ドラマ主演の山下智久さんは、かつてクロサギでも主演しているので、不思議なご縁を感じている。

それがNHKということで業界からはどういう反応があるだろうか

夏原氏 業界は気にするのかもしれない。業界人は結構ドラマを見るのではないか。だが業界の人がどう思うかではなく、消費者がどう感じるかが大事だ。業界人が襟を正すまではいかないにしても、考えてくれるきっかけになったら嬉しい。

連載はどこまで続く

夏原氏 最新刊14巻が出た。漫画の連載は人気があって、作品自体が行き詰まらない限り続くものだと思っている。原作としては幸いなことに様々な方が協力してくれているので、ネタには詰まっていない。あとは脚本と漫画家のモチベーションが続くかどうかだ。今漫画家の大谷アキラさんはテンションが高い。でも漫画を描くという作業は肉体的にきつい仕事だから。漫画家次第ではないか。

田中氏 作品としては非常にいい状態。漫画の連載は、止まらないジェットコースターに乗ったようだと言う作家もいるくらいだ。原案、脚本、漫画、三人の作家さん次第だと思う。

シリーズ;不動産の”正直営業”はどこまで可能か??④へ続く

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