シリーズ;不動産の”正直営業”はどこまで可能か??④ ネガティブな情報を伝えて感謝された 正直不動産「モデル」の鈴木・誠不動産社長
鈴木誠・誠不動産社長

NHK総合テレビでドラマ「正直不動産」(小学館)の放送が5日からスタートした。山下智久さん演じる口八丁・手八丁の不動産営業マン・永瀬財地が、徐々に「正直な」営業によって頭角を表していく。そのストーリーさながら、それまでの営業手法に疑問を感じて「正直営業」を実践するようになった誠不動産(東京・渋谷)の鈴木誠社長に話を聞いた。正直営業は果たしてどこまで可能だろうか。

 漫画がヒットし、ドラマがスタートした

 不動産業を真正面から描いた漫画作品は「正直不動産」が初めてではないか。「地面師」「三為業者」「既存不適格マンション」など毎回トピックスが変わり、その度ごとに面白い視点があるので楽しく読ませていただいている。不動産に関わるお客さんも、実際の営業の仕方や、不動産取引の本当の仕組みがわかるはずだ。この漫画を通じて騙される人が少なくなればいいと思う。不動産業者も心を入れ替えていい業界へしていく、襟を正すようなことになっていければいいと思う。漫画自体が既にヒットしていて、ドラマも始まったことで、もっと広まっていってほしい。

 漫画の帯に顔写真付きで登場したこともある。夏原さんとの接点は

 2017年に連載が始まって暫くしてから、賃貸業界紙記者を通じ恵比寿の当社事務所に、夏原さんと小学館の田中潤・副編集長、漫画家の大谷アキラさん、脚本の水野光博さんが見えられて、不動産営業の仕事の実態などを伝えた。コロナ禍になってからも取材の問い合わせがあり電話などでやり取りしている。

大谷アキラさんのイラスト
 鈴木さんご自身が永瀬の『モデル』であるとか

 そうではない(笑)。私は連載の当初はこの漫画の存在を知らなくて、知人の不動産会社経営者から、私のような営業スタイルを貫いている不動産の漫画があると聞いた。それから暫くして小学館サイドから連絡がきた。だから永瀬のモデルということではなく、たまたま漫画の永瀬と同じだっただけ。だがモデルと言われるのはとても嬉しい。仕事へのモチベーションにもなる。

 これまでの仕事を振り返って

 業界のキャリアのスタートはおよそ20年前。電話の受話器に腕をガムテープで巻いて営業する古典的な営業スタイルの会社に入った。同期は皆すぐに辞めていって、私も半年しかいなかった。辞めた人間の一人が賃貸不動産の会社へ転職し、声を掛けてもらったのでその会社へ移った。そこで賃貸営業をスタートした。

 その会社は当時テレビの情報番組などへ盛んに登場する有名な会社で、都内に複数店舗を抱えていた。ただその会社は今から考えれば悪い不動産屋だった。なんでもいいから数字が上がればOKというスタイルで、おとり物件の掲載は当たり前。マイソクの礼金を書き換えて、礼金ゼロ物件をありに修正する、いわゆる「のっけ」も横行していた。入居者から礼金をもらってそのまま自分の懐にしまうのがのっけだ。

 強烈な営業で鍛えられた

 この会社は営業成績1位以外は全員ビリと同じというスタンス。ノルマは月85万円で、125万円を超えると歩合がついた。ノルマに達しないと給料は自動的に12万円に下がる。だから無理矢理にでも「決める」営業を強いられた。それに加えてなるべく手間を掛けずに上前をはねるスタイルが定着していた。オーナーから家賃1ヶ月分の報酬が得られる「AD100%」物件に「のっけ」を行い、仲介手数料を含めて家賃3ヶ月分を得るような営業も普通に行われていた。このような詐欺的なことをしてでも、絶対に1位を取る為の営業が繰り返されていた。

 それからどうしたか

 その会社には3年半在籍したものの、心が疲れたので退職した。そこの同僚がワンルームマンション販売会社を作ったのでそちらへ移った。その会社で私は営業ではなくて、投資家へ販売したマンションのPMを担当していた。基本は営業のように外に出ることはなく、デスクワーク。これが性に合わなかった。加えてこれまでのお客さんから、また部屋を探してほしいとリクエストが来ていた。デスクワークよりも会社の外へ出たくなった。それでPMを本業としながらも、お客さんの部屋探しを手伝うことになった。この会社は賃貸部門がなかったので、上からはやりたいようにやっていいよと言われ、割と自由に動かせてもらった。

 賃貸営業に戻ったと

 賃貸営業はPMのついでだったので、そこで数字は追っていない。過去の賃貸営業のように、内見の数を絞り回るルートを決めて、すぐに決めるという動機はない。なるべく会社に戻りたくなかったので、お客さんには好きなだけ内見してもらった。加えてお客さんがすぐに物件を決めないように、その物件の悪いところをあえて言うようにした。例えばこの部屋は日当たりが悪いとか、上階の足音がうるさいとか、下階の人が音に対してすぐクレームを言ってくるとか。そういう把握しているネガティブな情報をあからさまに伝えてみた。

 都合のいいことしか伝えないことの真逆だ

 悪いことばかり伝えた。そうしたら、逆にお客さんが喜んでくれてすぐに決まってしまった。いいところだけではなく、悪いことも全てしっかり伝えてくれる。今までそういう営業を受けたことはなかったと感謝までされた。その後も接客して悪いところばかり伝えていたら、すぐ決まってしまう。結果、デスクワークの時間が減ることはなかった。一方でどんどん紹介が増えていく。こうした経験が現在の誠不動産に繋がっている。

「正直営業」の原点はデスクワークだった

 まず微妙な物件を2件内見させて最後に1つまともな物件を見せる。いろんなトークを交えてお客さんをその気にさせる。それでお客を物件にはめ込む。そういう営業ではなくて、思ったことを言う営業に完全に変えた。本業とのPMをやりながらだったので、成約件数は月2、3件のペースだった。ただしその会社はリーマン・ショック後の不動産市況の変化で廃業の危機が迫っていた。そこでまた仕事の知り合いからの誘いがあって別の賃貸の会社に入った。最初の1ヶ月だけ反響営業をしていたが、おとり広告を使った営業が状態化していた。そこで私は反響はいらないので、会社に掛け合い紹介だけの営業を始めた。だが自分が完全に納得できる営業を貫きたい。そのため起業の準備を始めた。 

 おとり広告の実態について  

賃貸の場合はSUUMOやHOMESなどの不動産ポータルサイトからの反響がきて営業がスタートする。もちろん通りがかりの人の直接来店もあるが基本はネットの反響。だから人気がありそうな物件は既に決まっていても取りえあず載せておく。おとりの反響でお客さんが来たら、その物件を内見させないようにするためのマニュアルがあった。事故物件ではないのに人が亡くなったことがあるとか、門限が厳しいとか、足音がうるさいとか。お客さんが苦手に感じる要素をあえて伝えて、他の物件に連れていく。まだまだよくある営業のやり方だ。

シリーズ;不動産の”正直営業”はどこまで可能か??⑤へ続く

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