今年の都道府県地価調査では、飲食店や商業ビル、ホテルなどの集積エリアを中心に、新型コロナウイルスの感染拡大による影響が大きく出た。都内の商業地で下落率が最大となったのは銀座7丁目の数寄屋通り沿いの地点(銀座7-3-14)で、昨年の+7・0%から△5・9%へと下落に転じた。飲食店が多く、インバウンド消滅と国内来街者の減少の影響をダイレクトに受けた。
銀座ではそのほか、全国最高価格の明治屋銀座ビルの地点(銀座2-6-7)が、昨年の+3・1%から△5・1%となるなど、調査時点がすべて下落に転じた。明治屋銀座ビルの地点は1月1日時点の地価公示との共通地点で、半年ごとの推移をみると、前半が0・2%上昇だったのに対し後半が5・3%下落と、コロナの影響が大きかったことが分かる。国土交通省は要因として、インバウンド激減で店舗売上が大幅に減少したことを挙げる。ただし、銀座のニーズは根強く、緊急事態宣言下中に欧州の家具ブランドが出店したほか、3月以降も売買取引は数件出ており、「銀座の需要は底堅い」(国交省地価調査課)。
同じく影響が大きかったのが浅草エリア。浅草寺に続くオレンジ通り沿い地点(浅草1-29-6)は、昨年34・5%の上昇で全国商業地の上昇率10位となったが、今年は0・5%下落と大きく下がった。インバウンド活況で収益性の高いホテル需要が強かったが、訪日客消滅により用途の多様性が低下し、地価下落へとつながった。つくばエクスプレス・浅草駅周辺の地点(西浅草2-13-10)は昨年の+31・1%から今年は+2・6%と上昇は維持したが、半期ごとにみると前半の15・4%上昇から、後半は11・1%下落となり都内で最も後半の下落幅が大きかった。
一方、オフィス街などは比較的影響が軽微で、都内商業地の価格3位の東京駅周辺の地点(丸の内3-3-1)は0・4%の上昇(昨年は1・1%上昇)。前半が1・1%の上昇、後半も0・7%の下落にとどまった。新宿エリアでは、東口の歌舞伎町地点(歌舞伎町1-18-9)は昨年の+17・2%から△5・0%、新宿3丁目の明治通り沿い地点(新宿3-5-4)も、昨年の+5・0%から△3・2%と下落に転じた一方、西口側のオフィス街である都庁付近の地点(西新宿2-6-1)は、昨年の+19・8%から+3・9%と、上昇幅は縮小したものの、上昇を維持した。
オフィス需要の強いエリアではそのほか、虎ノ門1丁目の桜田通りから1本入った地点(虎ノ門1-16-8)が+9・1%で都内商業地で上昇率が最大となったほか、泉岳寺駅に近接の地点(高輪2-19-19)は+7・5%で上昇率2位となった。両地点とも新駅の暫定開業効果が生まれている。
◎売り急ぎない、レジや物流に引合い
ホールセールの動きは、コロナ禍で一時的に取引や商談が止まっていたが、7月以降は徐々に動き出し一定数の取引は生まれているようだ。経済悪化を見越した不動産売却の相談は増えているが、業績悪化による売り急ぎや投げ売りのような相談は小規模企業のごく一部にとどまっており、取引価格も相場から外れてはいない。買い手側には価格が多少下落するのではとの期待感があり、「買い手側は相場価格の90~95%程度で検討している一方、売り手側は売却を急ぐケースはまだ少なく、価格目線に若干乖離が出ている」(東急リバブル取締役専務執行役員・ソリューション事業本部長・岡部芳典氏)。
物流施設や安定的な賃貸レジデンスのニーズが引き続き強いほか、オフィスの需要も依然として堅調だ。緊急事態宣言下中に都心好立地のオフィスビルの入札があり、最低価格100億円のところコロナ禍で下回るとみて65億円で札を入れた企業もあったが、落札価格は100億円を軽く超えたという。
一方、インバウンドが途絶えた影響でホテル、飲食や物販などの商業ビルは厳しい状況となった。「ホテルは相場の6~7割なら購入ニーズはある」(三菱地所リアルエステートサービス)という状況で、売却相談は増えているが価格乖離で実際の取引は増えていない。収益性が高く用地取得で価格優位性のあったホテルだが、需要の強かった浅草エリアでは、「不動産会社がホテル用地を取得したが、コロナ禍で計画が中止になり、売却を検討しているケースもみられる」(日本土地建物販売)。また、同エリアでは1階に飲食店が入る狭小ビルなども多く、売却相談が増えてきている。相場10億円の物件が半値の5億円で売却に出ていたケースもあったようだが、あくまで所有企業の個別事情が強く、全体的な売り急ぎや投げ売りなどの動きにはなっていない。
同様に地価下落が目立った銀座エリアは、取引量自体は元々多くないが、3月以降も取引は一定数あり、東急リバブルでも売却相談を数件受けているという。「銀座ブランド」の訴求力は強く、海外投資家も含めてニーズは強く、「値崩れはしていない」との見方が大勢だ。都内商業地で売り急ぎや価格変動の動きが出るとすれば、「各企業の業績がまとまる年末や年度末以降のタイミングではないか」と、流通会社ではみている。
2020/10/02 日刊不動産経済通信