コロナ禍で引き続き厳しい業績が続く業種も多い中、分譲マンション市場に関しては、都心から郊外まで好調な販売状況が続いている。一方、土地代の高騰と建築費の高止まりで販売価格の上昇が続いているため、デベロッパーは分譲価格の上昇を抑えるために徹底したグロス圧縮を行わざるを得ない状況にある。そのため、狭小化した面積をカバーする答えである商品企画に目が向かっている。
面積圧縮後の限られた空間を有効利用
ワークスタイルの変化に対応した商品も
2021年の分譲マンション市場は、分譲単価のさらなる上昇により、専有面積の圧縮が進み、それに伴い1LDKから3LDKまで多様な間取りをラインナップした「ハイブリッド型」の商品構成が増加した。また、温暖化による異常気象や自然災害の多発で、環境問題への取組みが真剣に議論され、世界的にカーボンニュートラルをはじめ、SDGsへの取組みを加速させていくなか、日本国内でも住宅に関して、脱炭素や持続可能な開発目標への貢献が期待されている。
調査会社のトータルブレインは、コロナ禍だった昨年の商品企画の傾向を分析し、今後の方向性を探っている。大きく分けて①高単価対応関連、②コロナ対策関連、③働き方改革(ワークスタイルの変化)関連など7点あると指摘する。①では、コンパクト化・間取りの多様化、内廊下や共用スペース・外観等におけるグレード・デザインの高級感の追求が見られた。特に面積圧縮への対応として、フレキシブル稼働家具や可動式クロゼットの導入のほか、さまざまな間取りの提案を通して、限られた空間を兼用・転用することで有効利用できる商品が数多く分譲された。さいたま市中央区で分譲された「ルピアコート大宮ザゲート」(中央住宅、40戸)では、キッチンを縦にした中央に配置。複数導線と風の通り道を確保した「ピアキッチン」は、ロングカウンターとダイニングテーブル一体のキッチンで、家の中心にダイニングキッチンがあるイメージを持たせ、パントリーや食器棚も充実しており、顧客評価も高かった。また、ウォークインクローゼット(WIC)がワークルームになる「変身クローク」や、洋室の扉と飾り棚を一体化した「アクンダナ」を提案している。
コロナ感染拡大に対する商品企画は、2021年以降定着しそうなものが多い。東京・練馬区で分譲された「リビオ練馬豊島園」(日鉄興和不動産、41戸)では、ニューノーマルの対応として、非接触対応や玄関に手洗いカウンターを設置したほか、無人コンビニや置き配サービスなど、利便性向上を図るサービスも導入。またリモートワークに対しては、収納+ワークスペースの発想で、WICを複合スペースに変更する「リモーゼット」、収納スペースの下部をデスクスペースに変える「リモデスク」、間仕切りの位置を選べる「リモドア」など、兼用・転用の発想で可変性のあるスペースを提案している。目黒区で分譲された「ザ・パークハウス目黒青葉台」(三菱地所レジデンス、13戸)では、マンション用全館空調システムを開発。天井内に設置するダクトの機能を、二重床下構造を生かした空気循環に代替することでダクトを省略。換気装置から収納空間に設置した床置き型室内機を経由する空気循環を実現。同シリーズの「鎌倉」でも採用し、野村不動産も同様な二重床を活用したマンション空調システムを開発している。また全戸専用宅配ボックスや冷凍・冷蔵対応宅配ボックスの採用はコロナ禍で一気に高まった宅配需要に対応した商品企画だ。
コロナ禍で広まった、ワークスタイルの変化に対応する商品も多く分譲された。東京・杉並区で分譲された「リーフィアレジデンス杉並井草森公園」(小田急不動産・大和ハウス工業、133戸)は、南向きワイドスパン住戸が中心で、LD拡大や洋室をワークスペースに変更する等の無償変更プランを提案。和室を小上がりとして、床下収納を設けた「和モダンプラス」やキッチン前のカウンターにカトラリーや文房具が収納できる引き出し収納を設けた「ドロアーカウンター」など、キッチンカウンターの活用案も提案している。大田区で分譲された「シーンズ大森パークサイド」(大阪ガス都市開発、26戸)では、マンション購入者が、外部業者が運営するコワーキングスペースを2年間無償利用出来たり、多拠点居住サービスを無償で60日間利用体験でき、地方でのリモートワークの体験できるサービスを付与している。その他、共用部にテレワークに対応した個室ブースを設置した物件もあった。“量”から“質”への転換点 ―コロナ禍で進んだ商品企画の多様化(下)へ続く
不動産経済ファンドレビュー