残置物処理モデル契約条項をどう見るか② 賃貸借契約解除の事務受任者と保証会社(上)ー中島成弁護士
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残置物処理モデル契約条項をどう見るか①より続く

残置物の処分

 相続人がいれば残置物は相続人が所有権を相続しているので、相続人の承諾を得て処分する。相続人がいない又は不明であれば、相続財産管理人を選任し、相続財産管理人との間で処分について定めることになる。

 賃借人たる高齢者が亡くなった場合、賃貸借契約の終了、滞納賃料の請求、明け渡し、残置物処分は、相続人がいれば相続人と協議等しなければならず、相続人がいないか又はいるかどうか不明でも、相続財産管理人選任手続をすることになる。そのため特に相続人がいないか又はいるかどうか不明の賃借人たる高齢者が亡くなった場合、死亡後の処理は法的に非常に困難となる。

死後事務委任契約

 第三者に自分の死後の事務を委任する契約が行われることがあり(死後事務委任契約)、形式に要件はないものの、内容の正確性等を担保するため、公正証書で契約される場合もある。

(死後事務の内容)
・医療費の支払いに関する事務
・家賃・地代・管理費などの支払いと敷金・保証金等の支払いに関する事務
・葬式に関する事務
・賃借建物明渡しに関する事務
・行政官庁等への諸届け事務
・各事務に対する費用の支払い
等。
(松戸公証役場HP)

委任契約は委任者の死亡により終了する(民法653条)。しかし、これと異なる契約をすることは有効なので(最高裁平成4年9月22日判決)、死後事務委任契約が委任者たる高齢者の死亡で終了することはない。

残置物の処理等に関するモデル契約条項(国土交通省及び法務省)

 モデル条項は、

・賃借人が賃貸借契約の存続中に死亡した場合に、賃貸借契約を終了させるための代理権を受任者に授与する委任契約

・賃貸借契約の終了後に残置物を物件から搬出して廃棄する等の事務を委託する準委任契約

の2種からなる。

消費者契約法等との関係

 契約条項は、残置物リスクに対する賃貸人の不安感が生ずるとは考えにくい場面(例えば、個人の保証人がいる場合には、保証人に残置物の処理を期待することもできるため、一般に、残置物リスクに対する不安感は生じにくいと思われる。)で使用した場合、民法第90条や消費者契約法第10条に違反して無効となる可能性がある(最終的には個別の事案における具体的な事情を踏まえて裁判所において判断される)。

解除関係事務の受任者の範囲

 賃借人が死亡すると賃貸借契約上の賃借人としての地位は相続人に相続されるため、これが解除されると相続人がその地位を失うこととなる。

 このように解除関係事務委任契約に基づく代理権の行使は相続人の利害に影響するから、解除関係事務委任契約の受任者はまずは賃借人の推定相続人のいずれかとするのが望ましく、その上で、推定相続人の所在が明らかでない、又は推定相続人に受任する意思がないなど推定相続人を受任者とすることが困難な場合には、居住支援法人や居住支援を行う社会福祉法人のような第三者を受任者とするのが望ましいと考えられる。

  賃貸借契約の解除をめぐっては賃貸人と賃借人(の相続人)の利害が対立することもあり得、それにもかかわらず賃貸人に賃貸借契約の解除に関する代理権を与えることは委任者である賃借人(の相続人)の利益を害するおそれがある。

 したがって、解除関係事務委任契約については、賃貸人を受任者とすることは避けるべきである(賃貸人を受任者とする解除関係事務委任契約は、賃借人の利益を一方的に害するおそれがあり、民法第90条や消費者契約法第10条に違反して無効となる可能性がある。)。

 また、賃貸人から委託を受けて物件を管理している管理業者が受任者となることについては、直ちに無効であるとはいえないものの、賃貸人の利益を優先することなく、委任者である賃借人(の相続人)の利益のために誠実に対応する必要がある。

保証会社が受任者になれるか

 上記国交省、法務省のモデル条項解説を前提に、家賃保証会社は受任者となれるかを検討すると、賃料不払いが起きていない段階で、単に賃借人死亡が生じただけの段階での場面では、相続人と利益が相反する可能性が高く、受任者として不適切と考えられる。

 モデル条項をアレンジして、賃料不払いが生じたときに限定して、合意解除権、解除通知受領権を保証会社が与えられる契約をする場合は、上記大阪地裁、大阪高裁における、解除権を保証会社に与える条項についての判示を前提にすれば、不適切とはいえず、民法90条や消費者契約法10条で契約が無効とされるリスクは大きくないと考えられる。

残置物処理モデル契約条項をどう見るか③ 賃貸借契約解除の事務受任者と保証会社(下)へ続く

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