ひっ迫状況が続いていた大阪のオフィス市況が反転している。ただ、先行きを見通せない大企業による需要が慎重な一方で、100坪前後までの需要は相変わらず好調に推移している。2022年以降、約10万坪の新規供給を控えるが、足元でリーシングは好調で、コロナを起因とした影響は限定的だ。一方、大阪の潜在価値を見出し、外資による大型案件への投資も行われている。大阪のオフィス市場と投資市場の現状と今後を見る。
オフィス空室率上昇もコロナの影響は限定的
2022年以降に大量供給、成約率は好調を維持
2009年をピークに、コロナ前まで新規供給が低水準で推移してきた大阪のオフィスマーケット。2019年までは大阪のマーケットは過去に類のない需給のひっ迫した状態だった。その結果、中心部のビルは満室状態で、2019年第4四半期末時点のAグレードオフィスの空室率は0.1%まで下がった。オーナーが空室を顕在化させず、解約通知が出ても、館内のテナントによる増床で消化され、館内で将来増床を見込む「隠し床」として持っておくこともあった。
そうした大阪のオフィス市況も、コロナ禍に入り変化が出ている。CBREの調査によると、2021年第1四半期における大阪の空室率は、オールグレードで2.8%(前期比0.5P上昇)、グレードAに限ってみれば、1.9%(同0.2P上昇)まで高まっている。統計上需給が緩み始めたところで、大阪では、2022年以降に大型ビルの竣工ラッシュを控えている。総供給延床面積は10万坪以上あり、すべての物件が賃料3.5万円超/坪とあって、マーケットに与える影響を懸念する声がある。
2022年春に阪神百貨店跡地を開発する「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」(北区梅田1-12)が延床面積4万2350坪で竣工。すでに、契約段階でダイキン、東洋紡、大和証券など約7~8割のテナントが決まっており、3.8万円/坪の募集に対して3.5万円の成約ラインが維持できている。同年8月には「日本生命淀屋橋ビル」(中央区北浜3-5-29)が1万5000坪で竣工。低層階に大林組、高層階は大手電機メーカーや監査法人、日系の製薬会社が入り、約7割のテナントが決まっている。2024年3月には、大阪中央郵便局跡を中心に日本郵便、JR西日本などが進める「梅田3丁目計画(仮称)」(北区梅田3-2―4)が6万8668坪で竣工。同年に「うめきた2期地区開発事業」(北区大深町)が13万3000坪で竣工。さらに2025年には、「淀屋橋ツインタワー」(中央区北浜3、4)が6万1500坪で竣工する。梅田3丁目計画は日本郵政の底力を発揮し稼働率は高いと見られ、淀屋橋ツインタワーも日本土地建物、京阪、住友商事、大和ハウスなど、ある程度テナントが見えている。ただ、大阪マーケットにおけるオフィス需要は限られているため、空室率は上がった状態になり、結果的に賃料の下落圧力が高まる。大阪のオフィス市況について、2025年にJLLは空室率9.4%、賃料7.8%下落、CBREは約10%、9.8%下落を予想している。
ところが、現場は思いのほか冷静に市場を分析している。「コロナ前までは上っている状況が異常に長かった。マーケットが上がり続けることは本来なく、いつかは一定の調整局面を迎える必要があったなかで、コロナ禍で結果的に調整局面に入った」(山口武JLL関西支社リサーチディレクター)といい、総じてコロナ禍は不動産市場にネガティブな影響を与えたものの、その影響は限定的との見方が強い。足元では「100坪前後より下の面積帯については、縮小も拡張も以前と変わらずに動いている。反面、大きいスペースになるほど、先行きの様子を見ている」(小畑大太・三鬼商事大阪支店次長)。大企業ほど今後の方向性が出せておらず、一方で中小はコロナに関係なく行動している。かつて5~6年空きが出なかった「グランフロント大阪」に解約区画が出たものの、高額賃料帯のビルは、思った以上に解約が出ていない。そのグランフロントも2013年の竣工時、イレギュラーな特別なテナントは1万円台/坪で入居したが、需給が正常化したときは新規3.5万円にしてもテナントが決まりだし、4~5万円でも入居希望者が出た。今後、Aグレードの家賃は2025年までに10%下がると見られるが、新規供給物件は2万円台半ばを最下限とし、2030年頃まで時間をかけて適正賃料に戻ると見られている。
発展可能性に高まる評価と底力―大阪のオフィスと投資市場を見る(下)へ続く
2021/12/15 不動産経済ファンドレビュー