人気の住宅地を抱える東京・世田谷。政令指定都市レベルの都市規模で人口増加地域でもあり、戸建て分譲住宅を中心に新築の供給は活発だ。一方で空家等のストック数は1000棟近くあることが判明しており、放置したままの空家等を巡り近隣トラブルも絶えない。そこで区は空き家所有者と不動産流通事業者などをDXでマッチングさせる取り組みを始めている。官民連携による「せたがや空き家活用ナビ」がそれだ。一連の空家等問題への取り組みについて、世田谷区防災街づくり担当部建築安全課 空家・老朽建築物対策担当の千葉妙子係長に話を聞いた。
ー世田谷区の空家等の現状について
千葉氏 世田谷区の空家等対策計画に掲載している空家等の件数(棟数)は966棟。空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)に基づく空家等対策計画を策定するため、空家等の実態調査を16~17年に初めて実施し、18年に件数を公表した。この966棟についてはほぼ全てが戸建て。現地を訪問して、外観目視で確認したものだ。調査時点から4年以上経っているので、多少増減しているとは思う。調査は5年に一度のペースで行うので、今2回目となる調査を実施中だ。2回目の調査結果は22年に発表し、次期の空家等対策計画の策定に繋げる。なお区の空家等の数え方は棟数ベースだ。総務省で出している空き家の統計数値は推計で、件数は戸数ベースで出している。区の調査結果とは数値が異なる。
ー空家等の966棟の分布などについて
千葉氏 駅からの距離があるなど、不便な場所に空家等が多いとか、地理的な要素はあまり感じられない。あえて言えば、東急・世田谷線の世田谷から三軒茶屋に掛けてのエリアと、東玉川・奥沢地区で少し目立つぐらいだ。例えば太子堂地区ならば木造住宅密集地域を抱え、住民の高齢化などで空家等が増えているとの推測も働く。一方で東玉川付近は良好な住宅街であり、東急・田園調布駅までは徒歩圏内だ。あえて理由を挙げるとするならば、高齢化と核家族化というオーソドックスなところになるのかなとは思う。
ー区内の空家等の発生の理由についてどう思うか
千葉氏 不動産の売却までに所有者がやるべきことが多いからだ。不動産の処分は素人には大変だ。引っ越しなどで元の住居を処分するのであれば流通するから空家等の発生が防げる。だが所有者が高齢者施設などに入ったり、相続が生じると空家等になりやすい。すぐに売らなければいけない、という切迫感がない。とりあえず置いておこうとなると、どうしても判断が先延ばしになる。加えて共有名義とかになっていると権利関係の整理などでそのまま時間が経ってしまう。
17年に実施した空家等の所有者等に対するアンケート調査の結果から見えてきたのは、「なんとなく売らない」というもの。様々な手続きが面倒に感じられている。共有関係など権利関係の整理もあるが、それ以外にも親が残した家財などをどう整理すればいいか、判断が付かない様子が窺える。それらを先送りするとさらに面倒になる。時間が経てば経つほど、家の中も分からなくなってくる。理由はどれか一つではなく、様々なことが絡み合っている。
ー空家等対策計画を策定して4年目となった。これまでの空家等対策の歩みについて
千葉氏 空家法が成立して、区では空家等対策の専任部署を作った。法律はできたものの、当初は実務面でよくわからない部分が多かった。例えば特定空家等と判断した後に、これらの助言・指導、勧告、命令、代執行までを法的にどう進めればいいか。弁護士などの専門家からヒアリングを行うなどして、スキームを固めていった。このスキームづくりと、特定空家等の案件対応で最初の数年は追われた。そして様々な試行錯誤を繰り返しながら、管理不全となっている空家等の所有者等の特定方法など、所有者等との連絡をどうするか といったやり方も見えてきた。これは都の税務部局と連携し、固定資産台帳などを元に追跡したり、法定相続人調査などを実施することで所有者等とコンタクトしていった。こうした手法を確立し、実行することで職員のスキルは高まっていると感じている。専任部署のメンバーは私を含めて5名で、部下4名がこうした調査を行っている。
ー行政代執行の実績は
千葉氏 特定空家等の数は10件あったが、行政代執行の実績はこれまでのところゼロだ。8件は解体され、残り2件は進行中の案件だ。解体まで至った8件は特定空家等と判断して、法的に指導書とか勧告書などを出しながら、所有者等の判断で解体に至り、代執行までは行かせなかった。特殊なスキームとしては、8件のうちの1件で民法の不在者財産管理人制度を活用した事例(写真参照)がある。所有者不明土地特措法に基づいて対応した案件はなかった。特定空家等に至った理由はバラバラだ。所有者それぞれにストーリーがあった。
―次期計画はどうなるか
千葉氏 これまでは助言・指導や勧告、命令など、代執行に至るハード面でのやり方を詰めるのに必死で、これからは次の段階である利活用をどうするか、といったテーマに移っていくと思う。