この夏、日本だけでなく欧米の都市も、河川の氾濫等で大きな被害を受けた。ドイツやベルギーでは7月にライン川支流のアール川流域で、1日で平年の7月一カ月分の降水量を超える降雨で洪水が発生、200人近い死者・行方不明者を出した。アメリカでも9月初め、熱帯低気圧に変わったハリケーン「アイダ」による集中豪雨で、ニューヨークを中心に大規模な水害が発生、地下鉄が水没するなどにより、少なくとも8人が死亡したという。いずれも日本各地で発生している水害と同様に、地球温暖化が影響していると多くの専門家は見ている。東京周辺では2019年の台風19号で武蔵小杉のタワーマンションの電気設備等が浸水した。近年大規模な水害に見舞われていないが、荒川流域等ではいつ深刻な被害が生じてもおかしくない状態である。マンション等を水害から守る、官と民の取り組みを紹介する。
地域のほとんどが荒川の氾濫等により水没する東京の江東5区(江戸川区、足立区、葛飾区、墨田区、江東区)は、2018年8月に共同で水害ハザードマップを作成し、250万人を超える住民に、水害の危険が迫った時は、水没エリア外に広域避難することを呼びかけた。翌19年5月には江戸川区が単独で、同様のハザードマップを<ここにいてはダメです>いうメッセージ性の強い見出しをつけて発表した。このハザードマップは大きな反響を呼び、説明会等では区民も真剣な反応を示したという。しかし、同年10月、台風19号が関東地方に近づくと、頼み綱である鉄道各社が計画運休をすると発表し、広域避難は事実上不可能になった。
こうした経緯に対応し、国と東京都は2020年1月、<災害に強い首都「東京」の形成に向けた連絡会議(第1回)>を開催。水害ハザードマップを共同で作成した江東5区の他に北区と板橋区も参加した。20年12月に連絡会議は「災害に強い首都・東京形成ビジョン」を発表した。ビジョンは水害発生時に、早期避難ができない場合でも、命の安全・最低限の避難生活水準を確保できる避難場所を「高台まちづくり」として面的に整備する方針を示した。高台まちづくりの具体的なイメージは次の3つである。①建築物等(建物群)による高台まちづくり、②高台公園を中心とした高台まちづくり、③高規格堤防の上面を活用した高台まちづくり。
マンション等の集合住宅が最も関係するのは①だが、国土交通省はビジョン発表に先行して20年9月「都市における水災害対策を進めるための容積率緩和の考え方について」(技術的助言)を自治体に発出した。この中で容積率緩和の対象となる具体的ケ―スとして「周辺住民等の避難に資する建物の中層階の避難スペース、避難路、備蓄倉庫の整備等」を示している。
この容積率緩和は、水害が発生するおそれのある場所での、安全性の高いマンション建設を後押しするだけでなく、高経年マンションの再生を検討する場合にも、水没する可能性がある低層階の居住者の避難スペースを確保できるための、合意形成が進めやすくなる。
水害から生命を守る「高台まちづくり」在宅避難ができるマンションをめざして(下)へ続く
2021/11/5 月刊マンションタイムズ