超高齢社会を迎えた中で増え続けるマンションストック。建物の老朽化と入居者の高齢化に加え、管理員の高齢化という「三つの老い」が進み、修繕・改修工事等も含むマンション管理の重要性がますます高まっている。このコーナーではトップインタビューを通じてマンション管理の未来を追う。今回は、マンションとビルの分野にDX推進室を設置した野村不動産パートナーズの福田明弘社長に重点的に取り組んでいる課題や今後の業界展望などを聞いた。
居住者のニーズが多様化
DXはどう寄り添うか
「リ・プレミアム デュオ」で
大規模修繕の長周期化を普及へ
――マンション管理事業の課題と戦略について。
福田氏 建物の老朽化と居住者の高齢化、そして管理員の高齢化というマンション業界が向き合っている3つの老いに当社も直面している。特に管理員の人手不足は都心部で厳しく、郊外部では若干厳しさが緩んできたという印象がある。人手不足の解消には将来的にはDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用が考えられるが、まだ整備ができていない現状においては賃金アップ以外の方法が見当たらない状況だ。
現状では、居住者の高齢化による問題はそれほど大きな影響は受けていない。しかし、いずれ進む居住者の高齢化への対策として、第三者管理方式について社内で研究を進めている。建物の老朽化については当社の管理マンションは「プラウド」シリーズがメインになっており、築年数が浅いものが多いので深刻な局面には至っていない。一方、プラウドの前進のブランドである「ステイツ」や「ヒルズ」が2回目の大規模修繕に入ってきている。それらの1回目の大規模修繕では社内で元請け工事を担う体制が整っていなかったため、PM方式で修繕工事を実施したが、2回目の修繕は元請けで当社が担うことに同意していただける管理組合が多い。それに合わせて大規模修繕工事の長周期化した商品「リ・プレミアム」の対象を拡大し、プラウド以前の野村不動産分譲マンションでも使用できる「リ・プレミアム デュオ」を商品化した。
――コロナ禍におけるマンション管理への影響は。
福田氏 ファミリー以外にパワーカップルや単身者など世帯構成が変わってくる中で、居住者のニーズも多様になってきた。特にコロナ禍によってさらにニーズの多様化に拍車がかかったという印象がある。在宅勤務の広がりや、リモートワークなどITを活用した仕事のやり方が一般化したことなどが影響し、マンション管理においても非接触や非対面での業務が求められるようになった。しかし、居住者のニーズは複雑で、マンションコミュニティに配慮した要望なども聞かれる。例えばオンライン理事会の開催では、オンラインとリアルのハイブリットで実施するにしてもオンラインに不慣れな高齢の居住者を気遣う意見が予想以上に多かったために、オンラインを全面的に進めることが難しかったのが実態だ。こうした居住者のニーズを受け止めながら、多様化への対応の必要性を実感している。ニーズに寄り添うことが課題だ。
DX推進部の設置
企業成長で新分野の業務を生み出す
――10月1日付でマンションとビルの部門に「DX推進部」を設置した。
福田氏 これまで当社の管理は、フロントであるマンションマネージャー、そして管理員等の担当者のホスピタリティが評価されてきた。「『住まいサーフィン』管理会社満足度調査ランキング」や「オリコン顧客満足度調査分譲マンション管理会社」等、調査会社のランキングでは、担当者に関する評価が高い。これまでの会社の経営においても人材教育に力を入れてきた経緯があり、DXの推進については他社より遅れていたと思う。
DXの推進に当たって「機械でできる業務は機械でやる」という方向に変わるわけで、社員にも戸惑いや軋轢が生じるのではないかという点を危惧しており、組織改編に当たっては全社を挙げてDXに取り組むという会社としての本気度を示したつもりだ。マンションとビルの両部門が一緒になって様々な課題について話し合っており、まずは半年かけてグランドデザインを練ってきたのでこのたび専門の組織を組み立てた。今後、マンションとビルの個別の事象について検討を進めていく。
DXによってデジタル化することで自分の業務がなくなってしまうのではないかという不安を抱えている社員がいるかもしれないが、そうではないということをアピールしながら進めないといけない。そのためには企業が成長するしかない。成長することで新しい分野の仕事が発生し、そちらにシフトしてもらうということを社員に理解してもらい、進めたい。
私からは役員や社員に「新規事業」という言い方をするのはやめようと言っている。「事業」となった途端に収支勘定が合うのか、儲けなければいけないと考えてしまい、自由な発想ができなくなってしまう。居住者のニーズに応えるために多様なサービスを提供しようという意図を大切にしていきたい。
マンションの居住者は多様になってきている。人による手厚いサービスが求められるマンションもあって、一律にすべてをデジタル化すればいいというものでもない。しかしDXで一度デジタル化を進めておいてから、管理組合のニーズに合わせてサービスの中でデジタルをどの程度、組み入れるかはマンションごとの判断になると思っている。マンションやビルの管理業務は労働集約型のビジネスモデルなので、変革の余地が大きいだろう。
トップインタビュー マンション管理の未来 55 野村不動産パートナーズ社長 福田 明弘氏 (下)へ続く
2021/12/5 月刊マンションタイムズ