大規模再開発事業が目立つ福岡。その成長性に期待する投資家からは、「ポートフォリオに1つは福岡の物件がほしい」と熱い視線が向けられる。一方で、10月のオフィス平均賃料が1万1166円/坪といった市場で、3万円/坪の新築オフィスビルがどれほど床を埋められるのかを疑問視する声も挙がる。福岡市の行政は、国際金融拠点誘致を掲げさらなる高見を目指して邁進する。再開発事業の足元と福岡不動産市場の動向を探った。
不動産事業へ積極性強める「七社会」
オフィスは強い先行き不透明感
天神ビッグバンの規制緩和第1号案件である「天神ビジネスセンター」が10月に竣工を迎えた福岡。天神エリアと双璧を成す博多駅周辺エリアでも、再開発事業「博多コネクティッド」が本格始動し、博多駅筑紫口駅前広場ではリニューアル工事が進む。「他の政令指定都市に比べ、コロナ禍の影響は軽微であったと考える」(JLL日本山﨑健二福岡支社長)という見方がされるように、行政による力強い後押しを背景にコロナ禍以前から進められてきた街づくりには弾みがついており、福岡市中心部の地価は高値圏が続いている。
開発事業を支え、福岡経済をけん引してきたのは、通称「七社会」と呼ばれる互友会に属する大手事業者だ。九州電力・九州電工・西部ガス・JR九州・西日本鉄道・福岡銀行・西日本シティ銀行の7社を指す。福岡市はスタートアップ企業を積極的に育成し高い起業数を誇っているが、地元の基盤を固める7社の存在は大きい。だが、社会インフラを本業とする各社では、電力市場の自由化、コロナ禍による鉄道事業への打撃などから経営計画を再考している。九州電力グループと西部ガスグループは、従前の本業以外の事業が利益の50%を占める中期経営計画を策定し、不動産事業を重要な柱の1つに据えた。鉄道事業者2社は、都市開発へ積極投資を行うことで、コロナ後の観光客誘致や地域活性化を梃子にした新たな事業機会を創出する戦略だ。なかでも、西日本鉄道が参画する博多区の青果市場跡地活用事業では、「三井ショッピングパークららぽーと福岡」の開業を2022年春に控える。同施設は、博多駅からJR鹿児島本線で1駅の竹下駅を最寄り駅としており、早くも周辺では住宅開発などが活況を呈し、博多隣接エリアへ賑わいを広げている。さらに、福岡市が進める七隈線沿線事業は、博多駅周辺エリアの回遊性を高め、天神エリアへの接続も見通した開発の可能性が浮上する。官民一体となった開発の熱量に、関係企業や投資家の期待感は大きい。
一方、天神ビッグバンにより2024年を目途に続々と竣工を予定するオフィスビルには、供給過剰感を懸念する声が聞かれる。リーマン・ショック以後、福岡市のオフィス貸床面積は約70万坪弱で推移してきた。これは新築物件の竣工と再開発で取り壊され貸し止めになる物件とが拮抗していたためだが、2024年までの供給は少なくとも約5万坪増と均衡が崩れると見られる。日本不動産研究所九州支社の高田卓巳次長は、「新築のハイグレード物件は坪3万円の賃料を見込んでおり、福岡の外から新しい需要を取り込まなければ床を埋めることはやや厳しい」状況を指摘している。10月末時点で、福岡市のオフィス平均空室率は三鬼商事調べで4.66%と緩やかな上昇傾向だが、新築物件の空室率では25.75%と需要不足が否めない。しかし、10月に竣工した「天神」は90%以上の入居率であることから、坪3万円のハイグレードオフィスの登場で、賃料と仕様のバランスに厳しい選択の目が向けられる現状と言える。この状況に対して、「福岡市がもう一段飛躍するためには通らざるをえない道であり、調整局面があったとしても中長期的には都市の成長につながると見ている」(前出の山﨑氏)といった前向きな見解もあり、福岡市に拠点を構える優位性がどのように評価されるかに注目が集まる。
都市機能更新に需要は追い付くのか―福岡マーケットを支える官民の力(下)ヘ続く
2021/12/5 不動産経済ファンドレビュー