新時代の管理運営を探る 51 水害から生命を守る「高台まちづくり」在宅避難ができるマンションをめざして(下) 飯田太郎(マンション管理士/TALO都市企画代表)

水害から生命を守る「高台まちづくり」在宅避難ができるマンションをめざして(上)より続く

2週間にも及ぶ湛水期間中の電気を確保
先進的なマンションの事例


 水害発生時に自宅マンションの上層階に避難する在宅避難や、マンションを周辺の人々の避難場所とすることは、前記の容積率緩和で実現の可能性が見えてきたが、実際に在宅避難生活を送るためにはライフライン、とりわけ電気の確保が不可欠である。想定される東京東部の水害は、湛水期間が2週間程度となる地域も少なくない。消防、警察、自衛隊等による救助は行われるが、少なくとも数十万人に及ぶ避難者の救出には1週間程度はかかると考えた方が良いだろう。大水害が起きれば系統電力は停電するから、その間、マンションで被災生活を送るためには電気の確保が不可欠である。
 こうしたことを考慮した賃貸マンションを、実際に供給したのが辰巳菱機(本社・江東区、近藤豊嗣社長)である。同社は非常用発電機等の設置及び負荷試験を業務とするが、本社や事業所が所在する江東区東砂は荒川の至近にある。水害発生時に深さ3~5m、湛水期間2週間程度になることが想定される地域である。
 社長の近藤氏は、行政機関や医療機関等の非常用発電機等の負荷試験やメンテナンスに関わることが多く、(一社)日本エネルギー設備保安推進協会の代表理事も務めている。水害時に避難可能な集合住宅の必要性を痛感し、本社の隣接地に防災用発電装置等を防災ステージに搭載した賃貸マンションを建設した。国土交通省や東京都が高台まちづくり計画を打ち出し、避難スペース等の確保を条件に容積率を緩和する方針を示す前に、自力で防災マンションを建設したことになる。
 地上14階建てのマンション「Tec Green Residence」は、1・2階を店舗や倉庫用等とし、3階から13階を計26戸の住宅として賃貸、14階は会社が使用することにした。
 マンションには防災用発電装置等として、①屋上に太陽光発電パネル(4.95kw×3基)、②2階防災ステージに設けたLPG発電機、電気自動車リーフから転用したリユースバッテリー(17kwh×2機)、非常用電源盤、③2階防災ステージ下にLPガスボンベ(20kg×7本・2セット)が配置されている。
平時は屋上の太陽光パネルで発電した電気を、主にエレベーターと給水ポンプ、EV車の電源として使用している。水害等で系統電力が停電した場合は、まず屋上の太陽光パネルで発電した電気を非常用電源盤を経由して使用することになる。太陽光発電による蓄電量が減少するとLPG発電機が稼働、エレベーターや給水ポンプ等に給電する。EV車が発電する電気も災害発生時には非常用電源盤に送られる。これとは別に太陽光発電と風力発電を利用する街路灯も敷地内にある。
 このように多くの防災用発電機等を設置しても、全戸の居住者が在宅避難を送るのに必要な電気を供給できるわけではない。エレベーターと給水ポンプを駆動する他に、全戸にある程度満足のいく電力を供給するためには、防災用発電機等を設置するためのスペースを更に広げる必要がある。容積率緩和はそのためにも役に立つ。
Tec Green Residenceという先進事例の経験を活かすことで、1週間程度の在宅避難生活に必要な防災用発電機等の設置に必要なスペース、費用等を算出し、行政による補助金等の支援の具体的なイメージを明確にすることもできる。
 これとともに、既存のマンションを高台まちづくりの重要な構成要素とするための、防災用発電機等の設置を可能とする、管理組合への支援策の検討も急ぐ必要がある。

2021/11/5号 月刊マンションタイムズ 

マンションタイムズ
コメントをどうぞ
最新情報はTwitterにて!

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめ記事