郊外エリアに新たな道筋 ―コンパクトマンション市場の足元と方向性(上)より続く
買物利便性に評価、駅遠でも割安感で好感触
ハイブリッド型で郊外市場への裾野広がる
一建設が東京・日野市で供給した「プレシスヴィアラ」(総戸数35戸)は、JR中央線豊田駅から徒歩3分、平均専有面積42.73㎡、平均価格3597万円で、1LDKが60%、2LDKが40%で、典型的なハイブリッド型商品だ。5月に分譲を開始したが、駅近に加え、再開発された高台の北口川の立地評価が高く、集客の中心である女性単身者からは、イオンモールや住環境等において、ターミナル駅の八王子駅より豊田駅の方が評価が高かった。中央住宅が埼玉・三郷で供給した「ルピアシェリール三郷中央」(57戸)は、オール1LDKでTX沿線初のコンパクト。街の清潔感、SCが近い利便性の高さが評価され、購入者の9割が女性単身者。広域から集客し、9月に完売している。
日鉄興和不動産が千葉・市川で供給した「リビオ本八幡」(53戸)は、35㎡の1LDKから68㎡の3LDKまで組み合わされたハイブリッド型で、ファミリータイプは完売。総武線本八幡駅から徒歩12分で、決して利便性が高いわけではなくコンパクト検討者に関してはネックになるものの、平均坪単価253.5万円の割安感でカバーできている。
郊外のコンパクトマンションは、平均面積が30~40㎡台から50㎡台に変化している。コンパクト物件の供給の郊外化が進んでいるが、郊外ではターゲットをシングル・DINKS層に特化した商品構成とするより、本来のターゲットのファミリー層も取り込めるよう、1LDKから3LDKまでバランス良くラインナップすることで事業リスクを抑えている。以前であれば子育てファミリー商品とシングル向け商品を混在で作ることに対してはネガティブな反応が強かったが、人口減少と家族構成の変化で、1人世帯、2人世帯、3人世帯と世帯形態の多様化が急速に進んでいるため、商品企画面でも大きな転換期を迎えていると考えられている。「これまでは4人家族が標準モデルだったため、3LDKさえ作っておけばそれで良かったが、現在はすでに3LDKの間取りが絶対ではなくなってきている」(杉原偵之トータルブレイン副社長)。その一方で、現在土地代と建築費が高騰、郊外でも高値で事業化せざるを得ない状況にある、都心方面へのアクセスが比較的良好な駅徒歩7~8分程度までの立地であれば、事業採算性からも、コンパクトで高単価を吸収していくという商品企画の方向性は今後ますます強まっていくと予想される。高値へのチャレンジと世帯構成の多様化・細分化への対応という2つの目的に向かっては、ハイブリッド型のコンパクト商品は、まさにうってつけの方策の1つと考えられる。
23区は単身賃貸層やDINKS層が多いため、コンパクト特化型の商品供給が十分に可能だが、郊外ではコンパクト特化型の供給が可能なエリアは限られる。しかし、ファミリーターゲットを加えたハイブリッド型であれば、郊外でも供給可能なエリアは広がるため、このハイブリット化によって郊外コンパクト市場は裾野を広げていくものと見られる。
2021/11/25 不動産経済ファンドレビュー