再エネ市場に投資資金が向かう―牽引する太陽光と洋上風力の足元と今後(上)より続く
政府が2050年ネット排出量ゼロという脱炭素社会実現を掲げたことに伴い、再生可能エネルギー(以下、再エネ)への注目が高まっている。折しも世界的にESG投資が拡大。2020年には世界全体の投資残高は35兆ドルに達する見込みで、全体の投資残高の約3割を占める。このような潮流の中で、再エネを取り巻く日本の市場はどのように対応していけるのか。足元と今後のインフラアセットとしての可能性を探った。
競争力を持つ電源は市場へ統合
ビジネスモデルのアレンジが鍵に
政府は、再エネ電力が競争力を持つ電源となることを促すため、FIT法を抜本的に見直し、FIP制度への移行を公表している。これは、FIT法では売電価格が一定なのに対し、市場取引や相対取引で得られる収入に定額のプレミアムを上乗せする形式。FIT法では市場価格が高い時でもインセンティブが働かなかったが、発電事業者は需給に応じて変動する市場価格を意識し売電することで収入を得ることが可能だ。1㎿以上の出力を持つ太陽光発電では、2022年からの移行を予定している。市場原理が導入されることで投資回収予見性が下がるという懸念もあるが、いかに電力調達法をアレンジして売電するかというビジネスモデルを築くプレーヤーが参入する新たな機会ともなる。
「太陽光を営農と発電で共有するソーラーシェアリングを活用できるのではないかと考えている。農業を見直すきっかけともなり、再エネと合体して上手く伸ばしていけると面白い」。前出の松塚啓一エネクス・アセットマネジメント社長は、太陽光を需給一体型モデルで活用することに意欲的な姿勢を見せる。タカラレーベン・インフラ投資法人は、保有する2つの太陽光発電所において、スポンサーであるタカラレーベンがみんな電力と特定卸供給契約を結び、再エネの利用を希望する事業者に電力を供給している。また、環境価値のみを市場で取引き出来る非化石証書市場では、電力の調達方法をアレンジメントできる1つの方法として事業可能性が期待できる。太陽光発電の今後に関して、みずほ情報総研環境エネルギー第2部の田原靖彦次長は、「今後の太陽光は、生活の中に溶け込ませる形で、どこまで細やかに導入していけるかが重要。発電事業単体で収益を出すのではなく、さまざまなサービスを絡めて、斬新なアイデアで人と人をつないでいくようなビジネスモデル作りになっていくのではないか」と話し、これまでとは目線の違うプレーヤーが参入する可能性も示唆した。
巨大な資金が動く洋上風力
課題は送電網、電気料金への懸念も
他方、政府が大規模な発電能力を期待する洋上風力には、多額の資金が向かい始めている。2020年2月、三菱UFJ銀行等3メガバンクは、丸紅と大林組が秋田県で開発する洋上風力発電事業に1000億円のシンジケートローンを組成。11月には新生銀行と大和エナジーインフラが再エネ事業に向けて400億円のメザニンファイナンスを組成した。新生銀行の担当者は、「太陽光発電事業への投融資を足掛かりに、ゆくゆくは洋上風力へより大きな資金を振り向けたい」としている。洋上風力の建設プロジェクトには、数千億円規模の資金が動くため、関連産業への波及効果も大きい。
洋上風力発電を巡っては、欧州が先行している。技術で先行する欧州は、遠浅な海域を広大に擁し、発電機の柱を海底に固定する着床式が主流。一方、遠浅の海域が少ない日本は、浮体式の洋上風力を主力とする必要がある。浮体式の技術は、欧州においても開発段階にあり、日本企業にも商機が存在する。ただし、送電網に大きな課題が残る。洋上風力を得るために有望な地域は、北東北・北海道・九州の一部といずれも大産業地域からの距離が遠い。政府は、直流送電により洋上に点在する変電所をつなぎ、長距離を安価で効率的に送電できるとする。しかし現状は、システム開発事業社が選定された段階で、インフラとして機能するためには課題が山積みだ。
課題解決に大規模な民間資金も動くが、発送電が実現すれば、ともすると再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、再エネ賦課金)という形でわれわれの電気料金に跳ね返る。年々増加している再エネ賦課金は、FIT制度終了とともにピークアウトしていく見通しであった。だが、新技術である洋上風力が競争電源となるまで、相応の負担金が発生する可能性が高い。そもそも再エネ電源の市場化は、再エネ賦課金の高騰=電気料金の高騰を抑えようという1つの試みである。事業化にあたっては、コストバランスが取れる仕組みが不可欠だ。
多くのプレーヤーが知恵を出し合い、最適なエネルギー供給が選別される必要がある現局面。事業アレンジメントが鍵となる太陽光発電、大規模資金で新技術を動かす洋上風力と、事業機会は多方面に拡大している。東京電力など旧一般電気事業者が担ってきた安定供給の責務は、独占供給撤廃と同時に市場に託された。大型の投資だけでなく、事業性を見極める目を持つ多方面からのプレーヤーの動向が注目される。
2021/1/25 不動産経済ファンドレビュー