トップインタビュー マンション管理の未来52 長谷工管理ホールディングス社長 三田部 芳信氏(上)より続く
常に組合に提案していける管理会社になる
―管理の質を向上させる取り組みとして、協会や国の評価制度にどう備える。
三田部氏 管理マンションの仮評価を実施し、SランクからDランクに分けた中でBランク以下のマンションの評価をAやSへと引き上げる提案づくりをスタートした。国や地方行政のインセンティブがはっきり見えてくると管理組合にも説明がしやすいところだが、何らかのインセンティブは出るということなので、まずは当社としてしっかりとした提案を組合に行っていきたい。
―管理事業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進について。
三田部氏 第三者管理者方式を採用した管理組合向け受託サービスsmooth-e(TM)を8月から導入した。長谷工グループで新たな事業モデルの開発やDXの推進を担う長谷工アネシスの価値創生部門に、当社から8名が出向し、2年かけて開発していく中で形になったサービスの一つだ。当初は受け入れてくれる組合は多くないのではないかと思っていたが、8月の導入時に8件、10月からは7件の導入が決まっている。小規模マンションに向けた商品として検討していたが、スタートしてみると築年数が10年以下で現役世代が多く居住するマンションが導入に意欲的であり、若い世代の居住者は効率的に時間を使い、適切な管理をしてくれるところに任せたいというニーズが強いという印象を持った。改良を進めながら、ひとつの管理パターンとして定着させていきたい。
また、グループ全体のDXの推進の一環として社内のシステム改革に取り掛かっている。「M3(みんなで創ろう未来の管理)プロジェクト」と銘打って、お客様に喜んでもらえる管理がいかにできるか、またその中で新しい手法に挑戦し、収益性の高い会社に変革できるか、社員の満足度の高い会社にできるかを目標にしている。フロントや現場社員、経営層でイメージのすり合わせを行い、忌憚ない議論をし、要件を詰めている。その先陣を切って、マンション専用のポータルサイト「素敵ネット」のバージョンアップを実施した。今後はフロントの抱える事務を削減し、担当マンションに頻繁に通う時間をつくり、新たな提案に活かそうと考えている。例えば、仲介業者に渡す重要事項調査報告書はフロントを通さず事務センターで発行するなどの取り組みを行っている。
こうした取り組みを行うのは、既存の管理の仕方ではダメなんだという思いが念頭にあるからだ。これからは管理の重要性が高まっていくと思うので、管理業界の地位向上のためにも常に組合に提案をしていける会社になりたい。
―今後のサービス展開について。
三田部氏 管理業界は飛躍できる業界であり、幅広くいろいろなことができる業態だと思っている。管理マンションに住んでいる人がいる限り、人や暮らしに関わる多様なサービスが展開できる。例えば「食」の分野においても、サービスを提供できる会社とアライアンスが組めれば取り組めるのではないかと考え、百貨店と連携したおせち料理の販売等の取り組みも試行している。コロナ禍で在宅時間が増え、食へのニーズも高まっている。管理業はこれまでは建物の維持管理が主体だったが、それだけではない快適な暮らしの提供という分野まで入っていける強みがあるので、どんどんやっていこうと思う。
他社が分譲したマンションを管理させてもらっているという当社の特性から、当社は固定されたカラーを持つ会社ではない。管理業務についても一つのパターンにはめる必要はないと思っており、個々のマンションに合った最適な管理が実施できればいい。こうした考えを反映した試みとして700戸規模の多棟型大規模マンションで、常にどこかの棟で稼働している機械式清掃を有機的に動かしながら日常清掃のあり方に見直しをかけた。また、物件ごとに清掃員のユニフォームを変え、物件の個性に合ったユニフォーム姿の清掃員を配置した。より親しみやすい雰囲気になり、近い距離で住民と接する中から、多角的な情報の収集もできる。こうした取り組みも広げていきたい。
認定制度のインセンティブ
地方自治体でも
―政策要望について。
三田部氏 国が認定制度を設計したということで、まずは認定をクリアした際のインセンティブをしっかり決めてほしい。上乗せで各地方自治体の基準が出てくるであろうから、国の認定制度に加えて、地方自治体のプラスアルファのインセンティブを提示してほしい。認定のクリアを国が要請するのであれば、クリアするメリットが管理組合に示されないと意味がない。メリットとして一番大きいのは税制の優遇であろうと思うので、期待したい。
マンション管理適正化法の中味の見直しもぜひ実施してほしい。例えば、管理委託契約締結に際する重要事項説明に関して言えば、管理業者の住所変更など、軽微なものも従前の管理委託契約と同一条件には当たらないとの解釈であったり、今般のコロナ禍等によるやむを得ない事情により総会が開催不可となった結果、管理組合との管理委託契約が原契約と同一内容の暫定契約となった場合の重要事項説明手続き等、管理会社と管理組合の労力負担が非常に重い。管理組合に不利益をもたらさない場合の重要事項説明会開催の要否を再考してもいいのではないか。こうした法的な縛りが多岐にわたるため、管理業だけで会社を成長させることが難しくなってきていると思う。適正化法の見直しは継続をお願いしたい。
さらに、区分所有法における個人の権限が強すぎるがゆえに、共同生活の場であるマンションで相当なトラブルが起きているのが実情だ。区分所有者全員で資産価値を守るのがマンション生活の基本になるので、ワンマンな主張が通らないよう、そういったものを制御する法律があってもいいのではないか。そういった細かい部分を含めて見直しをしてもらえればありがたい。
##三田部 芳信氏(みたべ・よしのぶ)氏
1958年1月10日生まれ、埼玉県出身、1980年3月日本文理大学工学部建築学科卒業、同年3月㈱長谷川工務店(現㈱長谷工コーポレーション)入社。1999年6月同社営業部門第二事業部営業2部部長に就任、営業部門第一事業部副事業部長、営業部門第二事業部事業部長などを経て、2011年4月同社執行役員。2013年4月㈱長谷工コミュニティ取締役兼専務執行役員、2016年4月同社代表取締役社長(現職)、2017年4月㈱長谷工管理ホールディングス代表取締役社長に就任。