神奈川県内を中心に、事故物件の流通を手掛けるアウトレット不動産(昆佑賢(こん・ゆうけん)社長)。事故物件を歩く② で紹介した 横浜・港南台の事故物件のフルリフォームが完成したとのことで、工事完了後の物件を訪ねた。場所は 横浜市栄区・港南台にある1983年に建てられたマンションの一室。
立地はJR港南台駅徒歩15分、5階建てでエレベーターのないマンションの2階だ。専有面積は約70㎡、間取りは3LDK。工事の前は直前まで住んでいた入居者のタバコや人間の体臭が残っている状態だった。実際に事故が発生したのは20年前。所有者の妻が自殺した物件だ。自殺があった後、前の所有者がこの物件を賃貸に出し、長年賃借人が住んでいた。アウトレット不動産が賃借人つきでこの物件を購入したのは5年前。その後賃借人が退去したタイミングで、この部屋を建築医学に基づくフルリフォームを実施したうえで売却することにした。昆社長にリフォームのポイントを解説してもらった。
―リフォームのポイントは。
昆氏 建築医学としては 色、形、照明、素材、そして間取りの5点が重要なポイントとなるが、この物件はマンションの1室だから建築医学としてできる部分、できない部分はある。まずは色。当社では白色のクロスは一切使わない。必ず暖色系、この住戸ではオレンジ系の暖かみのある色にしている。脳に与える刺激を高めるため、各部屋の一面にはアクセントクロスを入れている。例えばリビングはオレンジとか、濃い色を使い、寝室はグリーンをアクセントクロスにしている。グリーンは人の心を落ち着かせる色で、快適に眠りにつかせることができる。形についてはマンションの1室であるから、一部はアーチ状のカーブを入れたが、基本は直線のままだ。ただし曲線が使えない間取りでも、極力、角を丸くする面取り行った。照明については白い光の蛍光灯は一切使わず、電球色使っている。昼は外から光が入って分かりにくいが、夜になれば落ち着いた雰囲気を引き出すことができる。
−工期やコストは。
昆氏 工期は1ヶ月。リフォームは配管から床材、設備まで一新させた。床材は以前は濃い色だったので、少し明るめにした。クロスについても色の選択肢が豊富な1000クラスの壁紙を全ての部屋に使っている。一般的な壁紙に比べて生産数が少なく、普通のクロスの1.3倍程度の価格はする。白いクロスだけなら余っても次の現場で使えるから無駄がなく効率がいいが、カラーに拘っているため、そこはいた仕方ない。壁紙の素材について建築医学で薦めているのは、湿度を調節できる珪藻土のような調湿効果があるもの。質感もいい。ただし珪藻土は一般的な壁紙との比較で3倍のコストが掛かる。今回はリフォーム予算との見合いもあってクロスを使った。風呂場は茶色をアクセントカラーとして取り入れている。給湯器も最新式のコンパクトな種類に変更した。システム収納をつけたりトイレの照明なんかも人感センサーをつけていたりと設備も良いものを入れた。費用としては税込で600万円弱。
―売り出し価格と告知について。
昆氏 1880万円(税抜)。築年数や広さ、駅距離などから周辺の流通相場とほぼ同じだ。事故物件でなくてもリフォームを行っていない物件はもっと価格が低い。これがリフォーム済みだと2000万円近い価格帯にはなる。自殺があったのは20年前のことだが、重要事項説明書には過去の事故について記載する。実際の買い手への説明は、客付側の仲介会社が行うことになる。コロナの影響なのか、買い手は昨年からかなり積極的に動いていて、業者によっては「コロナバブル」と言っている人もいるぐらい。かなり物件が売れてしまっていて今は売り物件が少ない状態。加えて建築医学に基づくリフォームはとりわけ女性に気に入っていただける確率が高い。過去の事故について気にする人は少ないかもしれない。
―建築医学の観点から見てどう評価する
昆氏 建築医学の考え方では、心は五感を通じて作られている。そのため環境が大事になる。目から環境を食べているような状態だ。住まいの心地がいいか悪いかで心に影響を与える。自殺する人の心を占めているのは絶望だ。絶望で心が満たされると死に至る。建築医学でいう「暗い」というイメージが絶望へつながるとすれば、少しでも寛げる良い環境、良い色にすることが大事だ。心を何で満たすか、心の満たし方が求められてくる。事故は過去のことだとしても、ただ時間が過ぎるだけで、風化していくことは恐らくない。連鎖してまた事故が起きるかもしれない。もし「ダブル事故物件」にでもなったとしたら、不動産としての価値は再起不能だ。そのため、2度と事故を起させないための、しっかりしたリフォームを行うことが重要なポイントになる。