木造ビルが選択肢になる未来―流通量拡大で国産材を救う(上)より続く
350m超高層ビルも技術的には可能
JAS製材で純木造収益物件の建築を実現
他方、「W350計画」(350mの木造ビルを含む環境木化都市構想)という大きな目標を掲げるのは、林業を祖業とする住友林業。計画は、「研究技術開発構想という位置づけだが、構造・耐火ともに現段階でも技術的な問題だけならば建設は可能。目標の2041年に建設を希望するオーナーが現れれば対応したい」と磯田信賢住友林業筑波研究所チームマネージャーは述べる。同社は3月、熊谷組と協業し中大規模木造建築ブランドwith TREEを発表。4月には15階建て以上で必要となる3時間耐火部材の開発を終了している。シンボリックな目標へロードマップを描く同社だが、教育施設や医療施設など木造建築実績を多く有し、着実な技術開発を行う。
中高層ビルを木造で建設する建築的優位性について前出の磯田チームマネージャーは、「海外事例では、コンクリートのように現場で養生をして、水分が抜けるのを待つなどの手間がいらず、工期が短縮できることが分かっている。施工手間が削減されれば労務費の削減につながる」と施工面での利点を挙げる。さらに、建築的な優位性を「何より素材の軽さだ」と指摘するのは、仙台市で2月、日本初純木造の7階建てオフィスビル「髙惣木工ビル」を竣工させたシェルターの安達広幸常務取締役。素材が軽いことにより、建物を支える基礎や杭への負担が減る。実際、仙台で同社が建設した「高惣」には杭が使用されていない。素材の軽さは、輸送コストや作業に関わる人件費などの軽減にも関与する。
しかし、コストに対する課題はぬぐえない。前出の磯田チームマネージャーは、「住宅材は一定量が流通し、現在のプレカット工場の機械は住宅材に最適な設計がされている。中大規模建築用の木材が規格化できればコストは下がるが、現状コスト高は否めない。今後、設計データを加工工程に直接反映するデジタル技術を用いる工夫など仕組みづくりも重要」と、一定量を流通させなければコストが合わないという現状を指摘しており、これを乗り越える方向性が模索されている。
一方、シェルターはコスト面をすでに解決している。同社が建設した「髙惣」について足立常務取締役は、「収益物件としてキャッシュフローが引けている。CLT材は、国が補助金を出すなど活用を進めたが、全国に製造できる工場が少なくコストが合わない。同物件は、JAS規格の製材を使用しているため、全国どの地域でも製造が可能で、仙台より賃料の見込める首都圏ならばさらに有利と考える」と、JAS規格の製材を用いる方法でコスト面を乗り越えたことを明かした。さらなる課題として安達氏は、「日本には、設計から材の強度や性質、プレカットに至るまで全てを把握しているコーディネーターがいない。建築を専攻する大学では、中高層木造ビルの実践的な設計を教える必要があるだろう」と人材を育てる必要性を強調した。現状、中高層木造ビルの多くは混構造建築でキャッシュフローを組むためには、法定耐用年数をどう見るのかが重要となる。また、純木造ビルが建築できるという前提に立てば、不動産の価値として木造ビルの償却をどう考えるのかも問題だ。技術・制度・人材、抱える課題は多いが、木材が都市の中高層建築に溶け込む日は間近に来ている。
2021/7/5 不動産経済ファンドレビュー