SDGs、ESGに対する意識の高まりを背景に、デベロッパーや建築事業者は、中高層ビルの建材として木材を使用する試みを本格化している。木材は、植林から伐採、消費というサイクルを持続できる循環可能な材。加えて、木の呼吸は、大気中の二酸化炭素を炭素として内部に固定するため、木造建築物は二酸化炭素を封じ込める森の機能を果たしていると言える。一方で、国産材の流通が抱える問題や、人々が抱く災害時の倒壊や火災への懸念を払拭できるのかという課題もある。各社の取組みと技術開発の現状を追った。
木造ビル完成へ大手デべは本格稼働 流通量拡大と流通網構築でコスト圧縮へ
大手デベロッパーによる木材を構造の一部に利用した中高層ビルの建築が、盛り上がりを見せている。三菱地所は、札幌市で地上11階建てのホテル「(仮称)大通西1丁目プロジェクト」を2020年3月に着工。同社はすでに、木材と鉄骨の混構造で、仙台市の賃貸レジ「PARK WOOD高森」(10階建て)と東京・千代田区のオフィス「PARK WOOD office iwamotocho」(8階建て)2物件を竣工済み。野村不動産は、東京・千代田区の分譲レジ「プラウド神田駿河台」(14階建て)を木材と鉄筋コンクリートの混構造で3月に竣工。オフィスでは、東京・渋谷区に「H1O(エイチワンオー)外苑前」(7階建て)の主要構造部に木材を使用することを発表するなど積極的な木材利用を進めている。国内最大・最高層の木造混構造建築を目指すのは、三井不動産。東京・中央区に地上17階建て、延床面積2万6000㎡のオフィスを竹中工務店と協働して計画、2023年の着工を予定している。
これらの案件はいずれも、国産材の使用を予定または実現している。背景には、林業の担い手が減少し、日本の森林が荒廃している現状を克服するため、積極的に国産材を利活用しようという挑戦がある。三井不動産の芝康行ビルディング本部統括は、「日本橋のプロジェクトでは、1000㎥ほどの国産木材を構造材として使用する。これは、戸建て50棟分ぐらいの木材使用となり、国産材の流通量に貢献できる」と中高層ビルに木材を使用する意義を述べた。人口減少が進む日本において、木材の主要ニーズであった戸建て住宅が大きく増加することは見込めず、いかに都市部の建築物に木材を使用できるかが今後の国産材流通量を左右する。
政府は、6月11日「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を参議院で可決・成立。民間の建物に木材を積極的に使用することを後押しする。だが、木造ビル建築の加速を阻むのは、木材にかかるコスト。各社が混構造としているのは、構造上の課題ではなく主に事業収支上の問題と見られる。国産材を生産する森林業界の構造は、小規模な事業者が多く、事業内容が細分化されているため、流通過程で手数料がかさみ最終的に高コスト化を免れない。加えて、日本は、建築物に係る耐火について厳しく法で規制している。技術の進展に伴い、2000年の建築基準法改正で、従前の仕様規定から性能規定の考え方が導入され、木材であっても耐火性能等で大臣認定を取得するルートが明確に示された。これにより、耐火性能を持つ木建材が利用可能となり、技術開発も進んでいる。だが、これら認定建材は、見た目は木材でも芯材が燃焼しないよう、燃え止まり層として木材を石膏やモルタルで被覆しているのが現状。三菱地所の奥川洋平開発事業推進室ユニットリーダーは、「技術的には、木造であっても問題はない。だが、割高な国産材に被覆を施すことでさらにコストがかさみ、S造やRC造に比較して事業収支は悪化する。これが木造ビルの普及しない一因になっている」と木造ビルのコスト高を指摘する。
三菱地所は、これを克服するため2020年1月、竹中工務店ら異業種7社でメックインダストリー(MEC)を設立。建築材として適したスギの蓄積量が多く、九州圏で輸送利便性が高い宮崎・熊本に近接した鹿児島県内に約9万㎡の敷地を持つ工場を建設し、主に構造材として使用するCLT材等を製造する。CLT材は、厚さ数センチの板材を繊維方向が直交するように重ね、接着したパネル。強度に優れており多くの中高層木造建築に活用されている。MECは、伐採、商品化、流通、消費までを一気通貫に行うことでコストを削減し、九州圏は元より東京や大阪といった大都市圏での木材需要に応える。ゆくゆくは生産拠点を増やしていく見通しで、全国への供給が実現されれば、デベロッパーが建材を納品するという新たな潮流が期待できる。
木造ビルが選択肢になる未来―流通量拡大で国産材を救う(下)へ続く
2021/7/5 不動産経済ファンドレビュー