アメリカ住宅市場は二極分解(下)経済アナリスト・文明評論家 増田悦佐
経済アナリスト・文明評論家 増田悦佐

アメリカ住宅市場は二極分解(上)経済アナリスト・文明評論家 増田悦佐 より続く

進む家賃の平準化が意味するのは

 眼を賃貸住宅市場に転ずると、そのへんの事情が、かなりはっきり見えてくる。

 国民全体が豊かになったための住宅価格上昇でないことは、下のグラフに出ている魅力的な大都市の家賃中央値を見れば一目瞭然だ。1寝室というのは日本流に言えば1DKか2LDKで、決して広い物件ではない。そういう物件の家賃中央値が、コロナ禍勃発直前のサンフランシスコ、ニューヨーク、ボストンなどの人気都市では、月に3000ドル(約33万円)以上していたわけだ。

 こうした高額賃貸住宅に住んでいた人たちの中には、都心部の豪邸が売りに出たので、喜んで買った人もいただろう。だが、彼らが念願かなって持ち家に住み替えたあとの空室は、どの程度値下げすれば埋められたのかを見てみよう。サンフランシスコでは25%近く、比較的値下がり幅の小さかったロサンゼルスでも15%以上の値下がりだ。

 これが、一見大盛況のアメリカ住宅業界の実情なのだ。その一方で、治安が悪かったり、街並みが荒廃していたりする、いわゆるラストベルト(錆びついた帯)地域の中小都市では、中央値が約800ドルだったインディアナポリスで20%強、約700ドルだったデトロイトで10%強とかなり大幅な値上がりになっている。

 アメリカでは、ロックダウンなどによって勤労所得だけに頼る世帯では年収が低下する一方、株などの金融資産を持っている大富豪はますます資産を拡大し、貧富の格差は広がりつづけている。それなのに、治安の悪さは覚悟の上で家賃の安いところに住むしかない人たちの多い都市では家賃が上がり、かなり高い家賃を負担できる人たちばかりが住んでいる都市で家賃が下がっているのだ。

 もちろん、今まではなんとか高い家賃を払って人気都市に住んでいた世帯が、大都市居住の魅力も薄れてきたので、そうとう家賃の低い郊外や中小都市に引っ越しているのも、家賃相場が平準化に向かっている一因だろう。どちらにしても、現在のアメリカ社会では都市生活自体が衰亡の危機に立たされている。

 と思っていたら、4月の住宅着工は戸建ての13%減を筆頭に、コロナ禍が始まって以来最大の下げとなったという報道があった。

2021/5/26 不動産経済Focus & Research

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