岸田新政権の経済政策(下)・大正大学教授 小峰隆夫
大正大学教授 小峰隆夫

岸田新政権の経済政策(上)・大正大学教授 小峰隆夫 より続く

給付金の一律支給は有効か


 言うまでもなく、コロナ危機を円滑に乗り切っていくことも重要だ。その場合、従来型の経済政策では、コロナ危機という特殊な状況下での問題に対応できないことが分かってきている。その意味で、これまでの失敗を繰り返さないようにすることが必要だ。
例えば、2020年春に行われた全国民への一人当たり10万円の給付金支給だ。その後明らかになったGDP統計によると、2020年4~6月期の家計収支は、賃金所得が減少したものの、10万円給付があったため可処分所得は大幅に増加した。その上、消費は外出の自粛等で大幅に減少したため、貯蓄が激増し、家計貯蓄率は実に21.9%となった。要するにお金が余ったのである。家計全体としては、10万円給付はそっくり貯蓄に回ったということである。家計貯蓄率は2021年1~3月期でも7.8%だ(コロナ前の貯蓄率は1~2%)。今だに家計の金余りは続いている。
同じような給付金政策は、今回の衆院選挙においても各党から提案されている。しかし、家計にお金が余っている状況でお金を配っても消費が盛り上がるはずがない。無駄なお金を配るような政策を繰り返して欲しくないものだ。

まずは必要な政策の見極めを


 規模感ありきの大型財政出動も反省すべき点の一つだ。政府は、2020年12月初めに、財政支出40.0兆円、事業規模73.6兆円という大型の経済対策を決定した。これに関係して、需給ギャップを目安にして対策の規模を決めようという議論が出たのには疑問がある。
 需給ギャップは、潜在的に実現可能なGDPと現実のGDPとの差を測定したものである。2021年7~9月のGDP一次速報値公表後に内閣府が推計した需給ギャップは、約34兆円の需要不足となっていた。この需要不足を政策的に埋める必要があるから「34兆円程度の経済対策を」という議論が出てきたようだ。しかし、需要不足の全て財政で補うことは不可能だし、それを目指すべきでもない。
同じようなことは今回も繰り返されている。これも衆院選を控えて、各党が数十兆円規模の経済対策を提案している。今回は、2021年4~6月期の需給ギャップが22兆円なので、これが規模の目安になるかもしれない。経済対策はまず規模を決めるのではなく、必要な政策を積み上げて規模が明らかになってくるのが本来のあり方ではないか。
 以上述べてきた諸問題は、いずれも衆院選が終わってから具体化されていくものだ、人気取りに陥ることなく、データとオーソドックスな経済理論に裏付けられた経済政策の運営を心がけて欲しいものだ。

2021/10/27 不動産経済Focus&Research

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