品薄状態が顕著な中古市場
3月末時点でのアメリカ中古住宅市場は、信じられないほどの好況だった。その破竹の勢いは下にご紹介する4枚のグラフで感じ取っていただけるだろう。
まず3月第4週までの成約価格中央値(まん中の価格)4週間移動平均だが、去年8月以降の高原状態からさらに一段跳ね上がって、前年同期比で17%上昇している。そして、これはおそらく史上初だろうが、成約価格の平均値が売り出し価格の平均値を上回った。
しかも、成約物件の59%が売りに出してからわずか2週間以内で成約している。もし売り手側が好況は長続きしないと見ていたら、どっと売り出し物件が増えそうな状況に思える。
ところが売り出し中在庫は、払底気味だ。2019年が年間を通じて90万戸以上、2020年は80万戸台で出発して70万戸を割りこんだ程度だったのに対し、今年は60万戸台ギリギリから出発して、すぐにも50万戸台を割りそうな品薄状態が続いている。
これは、中古住宅市場は当分値上がりが続くから、自分の家を持っている人たちは売り急ぐ必要がないと見ているからだろうか。そうではなくて、人気都市都心部の高額物件はよく売れているが、その活況が下の価格帯に波及しない、狭い範囲だけの好調なのではないだろうか。
市場は好調に「見える」だけ
20世紀末までのアメリカの住宅市場は、他の先進諸国では類例を見ないほど実質価格が安定したマーケットだった。次のグラフをご覧いただきたい。
米国実質住宅価格は、1890年代前半に約2割上昇した。だがそれからのほぼ1世紀間、60台半ばから120台の範囲内で収まっていた。これだけ長い年月にわたって山から谷で半値、谷から山で2倍の動きしかしていなかったのは、順調な経済発展が維持され、世帯所得が上昇しつづけた国としては、ほんとうに珍しいことだ。
主な理由としては、もちろん広くて比較的平坦な地形の場所が多い国土で、地価の安いところに新都市を開発しやすかったこともあるだろう。だが、GDP成長率が高かった時期にはもう、自動車が普及し、道路網もかなり整備されていた。そのため、拠点駅や主要港湾付近に家を持たなくてもあまり不便ではなく、特定の地域だけ地価が急上昇することがなかったことが、実質住宅価格の安定に大いに貢献していたと考えられる。
だが、この状況は21世紀に入って激変した。20世紀末からサブプライムローン・バブルピークの2008年までで約8割上昇し、急落したあと、またピーク近くまで上がっている。
2000年まで、あるいは2010年代前半に買った家の莫大な評価益が、今の一見好調な住宅市況を支えている。それは、単に「これだけ評価益の出ている家を今売ったら、もっといい家に住み替えられる」というポジティブな理由だけではない。「いつまた暴落するかわからないから、高いうちに売り抜けよう」という心理も働いている。
だとすれば、もっと売り出し物件が増えてもいいはずなのに、売り出し物件は激減している。これはやはり、人気都市の都心部に住んでいる人たちが、コロナ禍の生活上の不便や、治安の悪化で都心居住をあきらめ、郊外や他州の中小都市に住み替えている、狭い範囲内の活況だという証拠だろう。
(アメリカ住宅市場は二極分解(下)経済アナリスト・文明評論家 増田悦佐 へ続く)
2021/5/26 不動産経済Focus & Research