新時代の管理運営を探る㊹東日本大震災から10年、必要なマンションの災害対策の強化②ー飯田太郎(マンション管理士/TALO都市企画代表)

災害対策を管理組合の中心的業務に

 東日本大震災を契機にマンションの災害対策は、公・民ともに進んでいる。しかし、マンション総合調査の結果をみても体系的な取り組みは遅れている。永住志向が高くなり、高齢者等の災害弱者も増えるなかで、マンションの災害対応力はまだ十分とはいえない。
 現在、行政による住宅の災害対策は、木造の低層住宅を中心とする従来型の住宅市街地を主な対象としている。首都直下地震が発生したとき、木造密集地区等で大きな被害が出ると予想されていることによる。死者を出さないことを最重要視する災害対策の中で、堅固な不燃の構造で、過去の地震で死者がほとんど出ていないマンションに対する支援は、どうしても優先順位が低くなる。
 しかし、マンションには在宅避難を円滑に実施するための衛生管理、エレベーター停止の中での高層階居住者への支援、消防を含む行政の各部所との連絡調整、損傷を受けた建物・設備の復旧・復興準備等々、低層住宅にはない固有の課題がある。発災直後の初動の段階でマンションへの公助力の投入が遅れる可能性があることを前提に、災害対策の枠組みをつくる必要がある。
 そのためには、管理組合のガバナンス強化を基礎に計画的、体系的な取り組みのできる体制づくりが必要である。重要なことは、災害対策を管理組合の中心的業務として確立することで、多くの区分所有者が積極的に参加する土壌を作ることである。マンション標準管理規約は災害対策について「マンション及び周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災並びに居住環境の維持及び向上に関する業務」としているが、災害対策の具体的な方策は示していない。消防法で義務づけられている防火管理についても、管理組合理事長が防火管理の権原者として、防火管理者を選任し消防計画(防災を含む)を作成することが定められているにもかかわらず、標準管理規約にはこれに関連する規定はない。
 その一方で、標準管理規約のコメントは「大規模な災害や突発的な被災では、理事会の開催も困難な場合があることから、そのような場合には、保存行為に限らず、応急的な修繕行為の実施まで理事長単独で判断し実施することができる旨を、規約において定めることも考えられる」としている。つまり災害対策は建物の維持管理と資産価値維持だけでなく、居住者の生命にも関わる重要な課題であるから、状況により、通常の手続きによらず非常時としての対応を取る必要があることを示している。
 しかし、管理組合の計画的、体系的な災害対策は一朝一夕でできることではない。大規模修繕工事は長期修繕計画に基づき修繕積立金の納入という形で、区分所有者全員で準備する仕組みになっている。これと同じように災害対応力も、区分所有者全員で創りあげるテーマである。災害対策を大規模修繕工事と並ぶ、管理組合の重要な課題として位置付け、強化する体制を整えることが必要である。
 具体的には管理組合の主要な業務として、災害対策を担当する理事を置き、業務実施の中心となる専門委員会を設けることが考えられる。マンションには区分所有者だけでなく賃貸居住者もいる。災害対策で最も重要な生命を守ることは、居住者全員の問題であり、専門委員会に賃貸居住者も参加する仕組みも必要である。
 区分所有者の高齢化等により管理組合の役員のなり手がいないこと等が要因で、管理不全のマンションが増えることが懸念されている。管理不全が生ずる大きな要因として考えられるのは、管理組合が区分所有者にとって身近で切実な課題に取り組む存在として感じられていないことがある。災害対策という区分所有者の生命、財産に直接関係する課題に取り組む組織であることが実感されれば、組合活動への関心も大きくなり、長期的な視点での老朽化防止、長寿命化等による再生についても、自分の問題として考える土壌をつくることに寄与する。
 管理組合のガバナンス確立と関連して、マンション外の第三者を管理者に選任することも考えられる。この場合、マンションに居住していない管理者が、災害発生時の緊急対応を
行えるかどうかを考慮する必要がある。第三者を管理者に選任しても、災害対策委員会等は常置して、災害発生時に機能するような工夫も必要である。

月刊マンションタイムズ 2021年3月号

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