シリーズ;空き家活用新時代② 空き家を定期借家で借上げ活用、中長期で収益を確保ージェクトワン 大河幹男社長(上)
大河幹男・ジェクトワン社長

総務省の住宅・土地統計調査(平成30年調査)によると、全国で最も空き家のストックが多いのは東京都内となっている。東京都では空き家問題に取り組む事業者を直接支援するため、モデル事業「民間空き家対策東京モデル支援事業」を展開する。同モデル事業で、令和2年度の「空き家の発生抑制・有効活用・適正管理における啓発事業」に採択され、実際に都内の空き家を中心に活用を手掛けるジェクトワン(東京・渋谷)の大河幹男社長に、民間事業者による空き家活用ビジネスのコツについて話を聞いた。

―空き家活用事業「アキサポ」について

大河氏 当社の空き家活用事業「アキサポ」は、当社が空き家を借り上げてリノベーションを行い、再生して活用していくビジネスだ。これまで不動産会社が手がける空き家ビジネスと言うと、空き家を管理するか、仲介するかの二択だった。空き家を活用するという概念はこれまでなかったので、管理・仲介に替わる選択肢として「活用」をキーワードにビジネスを構築したいと思い、5年前に本業である不動産開発・売買などの事業の傍ら、「アキサポ」をスタートした。セミナーなどを通じて認知拡大に努めている。5月に当社が主催したオンラインセミナーでは、東京・墨田区の空き家政策の担当者を招き、民間事業者と地方自治体の政策担当者など130の関係者を集めた。空き家に関するセミナーは17年以降20回以上開催しているが、過去最多の参加者数だ。

―空き家ビジネスを手掛けた当初は

大河氏 当社が空き家活用事業をスタートした当初は、飛び込みで空き家を探しに行っていた。大学生のアルバイトを雇って、ガスメーターが止まっている家などをチェックし、謄本を挙げて所有者に会い、空き家で何か困っていませんか、空き家を有効に活用しませんか? などと積極的にアプローチを掛けていた。だが不動産会社がこれをやると無視されるか、あるいは毛嫌いされて嫌な雰囲気になってしまう。そこで所有者に対面しないでDMを送るようにしたが、こちらも全然ダメ。所有者からの反応はない。つまり、空き家所有者に対してはこちらから積極的にアプローチしても無意味であることがわかった。パブリシティ効果がないとダメだ。例えば空き家活用の啓蒙やセミナーなどを通じて空き家事業をPRして、所有者の方からこちらへ来ていただく、というやり方に変えた。

空き家活用等の啓蒙で東京都の補助事業に採択された

―自治体へのアプローチはどうしたか

大河氏 空き家事業は、民間独力でできることは限られており、官民の連携は必要不可欠。所有者が相談に行くのはまず役所だ。そのため自治体の空き家担当部署に空き家のオーナーを紹介してもらうのが手取り早い。そのためセミナーを自治体と連携して行おうとした。だが当初は自治体から断られた。その理由は当社が民間企業だからというということだった。そのためにNPO法人空き家活用プロジェクトを立ち上げた。その後NPO法人で地道にセミナー活動等をしていたら、徐々に自治体からセミナーの後援をいただくケースが増えていった。

昨年は当社が提案した「空き家の発生抑制・有効活用・適正管理における啓発事業」が、東京都の「民間空き家対策東京モデル支援事業」に採択された。空き家版のエンディングノートなど、空き家の活用などの啓蒙のための媒体を制作し、自治体の窓口にも配布している。こうした取り組みもあって自治体からの反応は格段に良くなった。P Rと自治体との連携、この二つは空き家活用の鍵だ。

―空き家問題における民間の役割は

大河氏 民間を絡ませないと、本質的な空き家問題の解決はできない。自治体ができることは解体のための補助金を出すとか、その程度しかできないからだ。例えば空き家であるのに故人の遺品があるとかで、処分したくない、という人がいる。こうしたケースに役所としてうまく対応ができるだろうか。民間が入れば、こうしたケースの場合、活用という提案ができる。例えば、事業者が借り上げて、一定期間経過したら所有者へ戻す、というやり方だ。仲介だけでは普通の不動産屋の発想で、所有者に対して空き家のアプローチはできない。そのまま持っていてもいい、という選択肢を示さないと、所有者は納得しない。 

使われなくなった空き家も活用次第で資産に

―アキサポのビジネスモデルは

大河氏 モデルケースとしては、当社が所有者と10年の定期借家契約、及びサブリース契約を結び、月5万円程度で建物を借り上げる。当社が500万円程度の費用を出してリノベーションし、テナントに20万円で貸し出す。10年というロングスパンで利益を出す仕組みだ。当社がリスクをとって空き家を活用するので、所有者にとっては取り組みやすい。しかも活用によって資産価値は向上する。リノベして再生すれば賃料が上がり、ただの空き家が優良資産になる。利回りが出て10年後には資産価値が倍になることもある。所有者にとってはメリットだ。出口は所有者に戻すが、売却してほしいといった依頼があれば、当社としてはありがたい。

―活用事業で利益は出せるのか

大河氏 売買の場合は、土地に担保設定を掛けられるから、金融機関から融資がつく。ただし空き家のリノベーション費用には融資がつかない。そのためリノベーションは自己資金で行う必要がある。当社もこれまでは全額自己資金でリノベーションを行なっていたが、収益面では苦しかった。そこで当社は1年前にある金融機関と、空き家活用事業に要する費用に対して、5年間総額1億5000万円のコミットメントラインを設定し、リノベーション費用もこの枠内でお金を使えるようにした。それで不動産会社として事業がやりやすくなった。自己資金ではなく、融資だとレバレッジが効くので、利益体質になる。当社のこれまでの実績や信用が認められたのだと思っている。

―アキサポ事業の収益は

大河氏 事業スタートから5年目が経ち、ここ1、2年で空き家所有者からの問い合わせが5倍10倍に増えている。来期にはアキサポ事業単体でも黒字転換の予定だ。定期借家の期間が10年だとすると、6年経過時点で損益分岐点を超える。その間のリスクはある。このコロナの状況では店舗の経営が難しいところもあり、そのあたりのリスクはみておかないと。腹をくくらないとできない。IRR(内部収益率)11%超で収支は組んでいる。当社はホテルや老人ホームなどの開発も手掛けていて、不動産で浅く広く事業をやっている。ほかの部門で利益があがっているので、長期で資金を回収する空き家ビジネスができる。

シリーズ;空き家活用新時代③へ続く

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