不動産業界にもスマホでの動画配信、VR(バーチャル・リアリティ)、電子取引、AI(人工知能)査定などデジタル技術が本格導入され始めた。これら不動産テックは業務の効率化、システム化による人材省力化などを促進し一連の取引をスピードアップ。更に将来的には各プロセスが専門化され分業化が促進される可能性もある。一方で、住宅購入のプロセスが省力化・合理化されていくことによる弊害はないのかにも留意する必要がある。なぜなら、人間はその能力が機械やAIに取って替わられても、次第にそれに気を払わなくなる“AI効果”に陥りやすいからである。
人類の歴史は、進化し続ける機械の歴史
“AI効果”は人間に何をもたらすのか
人間は機械を発明することで文明社会を築いてきた。しかし、人間はその能力を機械に代替させることで何を失ってきたのかにはあまり気を払わない。昨今、注目される“AI効果”とはその最先端を突く言葉である。
AI効果とは、「AIによる技術が普及し、それが当たり前になると、人間はそれを高度な知能とは意識しなくなり、ただの自動化技術で人間生活の一部とみなすようになること」をいう。「AI効果で、AIがAIでなくなる」という表現も使われる。例えば初期のAIである自動洗濯機や自動改札機などを今や高度な人工知能と思う人はいなくなり、誰もが当たり前のことと感じている。パソコンを使い始めたときは誰もが驚いたが、今やその検索スピードの速さや漢字変換能力に関心を示す人はいない。つまり、今注目されている自動運転化技術もいずれは人間生活に溶け込み、誰もが当たり前と思うようになる。
こうしたAI効果は人間に何をもたらすのだろうか。洗濯や掃除、駅員の切符切り、辞書を引きながら文字を書くこと、車を運転することなどそれまで人間がしていた作業がことごとく機械に置き換えられていく。そして人間はそれを科学技術の進歩、人類の発展とみなしてきた。しかし、人と自然に会話するヒト型ロボットや将棋名人に勝つAIまで登場するようになると、人間は「これ以上、人間の能力が機械に置き換えられていくと、人間はどうなるのか」という疑問や不安を抱き始めた。ロボット研究者の中には皮肉を込めてこう指摘する人もいる。
「人間はすべての能力を機械に置き換えた後に何が残るかを見ようとしている」(不動産テックの光と影―無自覚の“AI効果”に留意せよ(下)へ続く)
2021/5/5・15 合併号 不動産経済ファンドレビュー