不動産テックの光と影―無自覚の“AI効果”に留意せよ(下)
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不動産テックの光と影―無自覚の“AI効果”に留意せよ(上)より続く

不動産テックのメリットと問題点
住まいという資産もただの商品に


 こうした“AI効果現象”は住宅・不動産市場に何をもたらすのだろうか。
不動産テックによって住宅購入に至るプロセスが合理化・システム化されることで、不動産会社は業務の効率化・人材の省力化を実現し、生産性向上につなげることができる。住宅購入者にとっては物件探しの手間、業者選びのわずらわしさ(テック技術の高さで信頼できる)から解放されるし、遠隔地の物件でも足を運ばずに重要事項説明を受け、契約を結ぶこともできるようになる。
 問題はここからで、住宅購入までのプロセスが合理化・省力化され、AIによる物件探し、価格査定などが当たり前になればなるほど、人間は住まいの選択という重大決定をも機械やAIの力を借りることに何の疑問も抱かなくなる。これまで開発されてきた技術は、それはいわば“人間の進化”で何の問題もないという見方がなされてきた。ソロバンが電卓に変わっても、手紙がメールに変わっても何の不都合もないのと同じという理屈である。しかし、住まいについても果たして同じなのだろうか。
幸福を求めての「住まいの選択」という精神的目的を果たすための能力が機械に置き換えられることによって、住まいと人間との関係に重大な変質がもたらされる可能性もあるのではないだろうか。それは例えば、住宅という商品(資産)のコモディティ化(一般化)である。「住宅もただの商品」という感覚になる。
これまでは、住宅を売る側も買う側も“大切な住まい”という強い思いから、営業現場では人間的接触(ニーズの掘り下げ、慎重な選択)を大切にしてきた。その営業現場にシステム化・自動化が浸透し、AIの力を当然と思い込むようになればいつか、そうした慎重さが消えていく可能性は高い。

AIによって進む人材のコモディティ化
業務の分業促し高度なサービス業に進化も


 一方でAIは人材のコモディティ化も進めるという指摘がある。AIによって論理的な仕事のシステム化が進むと、これまでは専門家の仕事と思われていた、例えば弁護士による契約書のチェック、不動産鑑定士による土地価格査定、ファイナンシャルプランナーによる家計・ライフプラン診断などが普通の事務作業になってしまう可能性が高まる。
 同じような意味で、これまでは不動産営業も極めて専門的仕事と思われてきたが、物件探しから重説・契約までの工程がすべて自動化・システム化されてしまうと、不動産営業マンの本来の能力としては何が残るのかという議論を巻き起こす。もっとも、それは不動産テックの“影”ではなく、“光”と見ることができる。というのも、不動産テックを業界全体として捉えると、問い合わせ対応、物件案内、ローンコンサル、リーガルチェック、クロージングという一連の取引プロセスの分業・高度化につながる可能性があるからだ。そして例えば、将来的には権利関係を精査する第三者機関(米国のエスクローなど)の創設へと発展していくことも期待される。それに伴い営業マンはその本来の仕事であるエージェント(クライアントの代理人)に特化し、その仕事に全力を注ぐことができるようになる。
 日本の宅建業法では不動産取引に関する責務のすべてが不動産会社または宅地建物取引士に負わされているため、宅建士が本来の営業マンとしての仕事に集中しきれない弊害があるといわれている。不動産テックの導入は、日本の不動産取引業務を専門部署ごとに分業化することで、不動産業を高度なサービス業として進化させる可能性がある。
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 かつての家電、冷蔵庫、洗濯機、クーラーなどの技術は人間の生活上の切実なニーズから生まれてきた。しかし、インターネットやスマホに象徴される昨今の技術開発は異質である。生活上の必要から人間が求めたというよりは、造ってみたらその便利さに誰もが感心し、あっというまに人間生活に入り込み、社会を一変させてしまった。
 身近な相手よりも、距離感を超えたウェブでの情報のやりとりに関心を抱くという人間の新しい性質が見えてきたのである。今後もそうした、まだ完全には理解できていない人間の性質を探りつつ、更なる製品改良が行われ、それに対する人間の反応を再度製品開発にフィードバックするという工程が繰り返されるだろう。インターネットやAIなどの技術開発は、新たな製品改良と人間性の新たな発掘を同時進行で進める。そのため、今後どのような未来社会が出現するのか、誰にも分かっていないのである。

2021/5/5・15合併号 不動産経済ファンドレビュー

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