魔女の飛び立ちそうな丘に児童文学館が誕生(上)作家・五感生活研究所 代表 山下柚実
緩やかな起伏に馴染むよう土地と一体化

 「コンクリートの塊を作る時代は終焉した」と語る建築家・隈研吾氏は、各土地の素材を使い生活文化や環境等の諸条件を受け入れていく「負ける建築」を提唱してきた。その隈氏が「全体は大きいが、僕らの目の前にあるのは、小さな点や線である」(『点・線・面』 岩波書店)と語るのは自らが設計した東京五輪のメイン会場・新国立競技場だ。

 巨大な建造物だが、その軒庇には47都道府県の木材、北海道産から沖縄産が北~南に順に並び、梁は鉄骨にカラマツとスギを組み合わせる等、最新の木材技術と伝統的木造建築の要素を活かしている。木を使って「パラパラとした開放感」を持たせた「柔らかな建築物」であることがポイントだと言う。

 そして今、隈研吾建築都市設計事務所が取り組んでいるユニークな建物がある。令和5年東京都江戸川区に開館予定の(仮称)江戸川区角野栄子児童文学館だ。

“丘”を活かす児童文学館

フラワールーフ 花びらが重なり合う形状の屋根


 『魔女の宅急便』等で世界的に名を馳せる作家・角野栄子氏は2018年に児童文学のノーベル賞ともいわれる「国際アンデルセン賞作家賞」受賞した。それを契機に江戸川区なぎさ公園内に、角野氏のものがたりの世界を体感できる児童文学館がつくられることになった。実は角野氏と江戸川区とのつながりは深く、幼少期に北小岩で暮らし江戸川河川敷で遅くなるまで遊んだ、という。今回の建設地も氏が実際に足を運び複数の候補から選定したそうだが、決め手は何だったのか。「公園の丘が、魔女が空へ飛び立つイメージに重なる、ということで傾斜を最大限活用することになりました」(江戸川区新庁舎・大型施設建設推進室)。

建物・公園・植物が一体となった空間

外から中が見え建物内部へと吸い込まれる仕掛け

 魔女の飛び立ちそうな丘の傾斜を最大限活かす児童文学館とは、いったいどんな建物なのだろう? 設計パースを見てみると一部は地中化し丘から突出しないボリュームで、緩やかな起伏に馴染むよう土地と一体化している。ユニークな屋根は「フラワールーフ」、つまり一つ一つの花びらが重なり合う形状で、薄い素材を複数重ねることによって重たい塊でなく分散化された軽やかさを感じさせる。
 内装も角野氏のテーマカラーの「いちご色」を軸に白を対比させて、ファンタジックな世界をつくり出す。開口部には大きなガラスを使い、外から中が見え建物内部へと吸い込まれ内部から外を見るとピクチャーウインドウ効果で周囲環境とシームレスに溶け合う。日本の家屋は「庭屋一如」、つまり庭と建物が調和し一体となった状態を理想としてきたが、その思想を現代に活かししつつ生まれ出るのがこの児童文学館だ。

魔女の飛び立ちそうな丘に児童文学館が誕生(下)へ続く

2021/3/24 不動産経済Focus&Research(旧・不動産経済FAX-LINE)

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