問われるアフターコロナの想像力―2021年首都圏分譲M市場の先行きを見る(上)に続く
2020年はコロナに翻弄された1年だったとはいえ、首都圏分譲マンション市場では賃貸脱出志向が高まり、割安感のある郊外のマンション販売が好転するなど、マイナスの影響は比較的小さかった。ただ、不安定要素が漂うことも確かだ。2021年はどうなり何が求められるのか。首都圏マンション市場の足元と展望を見る。
駅距離リカバー要因あれば販売は好調に推移
先行き郊外も価格上昇必至で立地次第で苦戦も
2020年は、神奈川、埼玉、千葉の3県のすべてで東京都からの転入超過となっている。これは東京からの転入超というより、東京への転出数の減少が影響していると考えられ、価格高騰で23区に住宅を買えない賃貸層が、地元で購入するケースが増えていることも考えられる。実際に2020年は、郊外部のマーケットで売れ行きが好転した。千葉では苦戦物件がほとんどなく、都下も一部の激戦エリアを除けば苦戦は少ない。神奈川・埼玉も苦戦物件は2割程度だった。苦戦原因は基本的に需給バランスか価格の割高感がほとんどであり、適正な価格設定の物件はほとんど順調に販売が進捗している。
ここへきて郊外エリアで見られる変化は、立地競争力がやや劣る物件でも販売状況が好転していること。「コロナで在宅時間が増加する中、今住む賃貸住宅への不満から、賃貸脱出・持ち家志向が高まっているものの、予算は限られるため、エリアや駅距離は多少妥協しても、買える価格を重視する傾向が強まっている」(杉原禎之執行役員副社長)。テレワークの普及やサテライトオフィスの整備等による都心への通勤機会の減少期待もあり、近隣に大型スーパーがあり、公園が近いなど、駅距離をリカバーする要因があって買える価格ならば販売は好調に推移する。ただし、たとえ割安でも需給バランスは外せない条件だ。JR横浜線橋本駅から徒歩17分・坪単価146万円、東急田園都市線つきみ野駅から徒歩12分・175万円など、2~3年前にライバルがほとんどいない状態で用地を仕入れられたこともあり、割安で供給できている。
トータルブレインは郊外マーケットのプラス面とマイナス面を指摘している。プラス面は、まず需給バランスが良好なこと。近年は交通利便性重視傾向を反映して供給エリアの都心シフトが鮮明、デベロッパー各社も郊外部での供給を敬遠する傾向が強かったため郊外部での供給が減少し、郊外は需給バランスが良好なエリアが多い。2点目は、一次取得者が買える価格での供給が可能。23区の価格急騰に比べ、比較的価格上昇が緩やかだった郊外部は価格割安感が強まっている。マイナス面は、子育てファミリーの絶対数の減少、共働きが増加し、郊外マーケットにおける消化能力が低下していること。共働きでも子育てが出来るエリアは、利便性が重視される。もう1つの懸念は、郊外部も今後は価格が上昇する。郊外の売れ行き好調を背景に仕入れた、やや高値で販売する物件がスタートする。価格が上昇しても駅近・好立地物件は販売が好調でも、通常立地で価格だけ上がれば苦戦も必至とみられる。
2021年のマンション市場を予測するには、今後のコロナの動きがどうなるのかが鍵を握る。「デベにはアフターコロナ時代をイメージする想像力が問われている」(杉原副社長)。コロナ禍にもかかわらず、土地は潤沢な緩和マネーを背景に上昇を続け、マンション価格も上昇を続けている。また所得が減少局面であるにもかかわらず、都心では1億円超のハイグレード商品があふれ、郊外でも価格が上昇し始めている。年初に見られていた脱分譲マンション化にはブレーキがかかり、コロナによる賃貸脱出志向の高まりで売れ行きが好転した。2021年はそうした動きと、コロナによって止められた2019年の市場基調が再び復活する可能性も考えられる。抑制されていた消費意欲が反動増することが、分譲マンション業界にとってベストシナリオだ。
2021/3/15 不動産経済ファンドレビュー