金融庁は1月、サステナブルファイナンス市場の拡大と脱炭素社会の実現に向けて、金融機関や金融市場が担う役割と機能を検討するため、サステナブルファイナンス有識者会議を設置した。政府が2050年カーボンニュートラルを打ち出し、すでに、脱炭素に向け動き出している企業は多く、環境関連の投資市場は拡大している。だが、目標達成には、今後一層の経済と環境の好循環を生み出していくことが不可欠。そのため、環境関連を含むサステナブルファイナンスとしての市場を整備し、金融市場の枠組みを作ることが課題となっている。そこで有識者会議では、①金融機関によるサステナブルファイナンスの推進、②金融資本市場を通じた投資家への投資機会の提供、③企業による気候関連開示の充実、を軸に議論を進める予定。第1回目の会議では、これらを核論として幅広い意見を求め、金融のイノベーションへ実行力ある提言を作成することが確認された。なお、同有識者会議の下に、ソーシャルボンド検討会議を設置し、実務指針を取りまとめていくことも承認された。
世界的なサステナブル投資の拡がりを受け、金融庁は日本の金融機関、金融市場、金融監督官庁の機能と役割を精査する必要があると判断。議論の端緒として、気候関連リスクへの対応と金融機関等の取組みを検討する。日本は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に世界最多の334機関が賛同する。また、取組みに係る質問書を基にイギリスのNGOがスコアリングを行っているCDP評価でも、Aリスト企業に位置づけられる企業数がアメリカと並んで1位と、情報開示内容も進展している。そこで金融庁は、TCFDに関わる議論を足掛かりに、ESGで言うところのSやGの領域にも議論を広げていく計画で、幅広い視点からの意見を募り、提言に盛り込む。提言の取りまとめは、4月から5月を予定している。
1月27日に開催された第1回会議の冒頭、高村ゆかり東京大学教授が気候変動と金融と題し、サステナブルファイナンスの諸課題を発表。それによれば主要な論点は5つ。①情報開示、②リスク評価、③投資・資金の動員方策、④金融監督庁の役割、⑤株式、債券、融資などファイナンス類型ごとの留意点、が挙げられた。続く自由討議では、16名のメンバーから多くの意見が述べられた。金融庁が当面の課題としたTCFDを巡っては、「より踏み込んで、何らかの形での制度的枠組みを議論すべきである」という意見が出る一方、事業会社担当者からは、「制度化を目指す時には、一定の柔軟性や自主性といったことが重要ではないか」という指摘も挙がった。
TCFDに基づく情報開示については、フランスが義務化を実施しているが、これに続くイギリスやニュージーランドでは、コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)方式が採用される見通し。この方式は、日本でもコーポレートガバナンス・コードにおいて採用され、原則遵守を一律に強制せず、原則が適切ではないと判断した場合は、その理由説明を企業に求める。日本におけるTCFD開示の制度化、さらにどの程度の柔軟性を持たせるかという議論が始まった。そのほか、グリーン・タクソノミー(分類基準)に関する意見や、トランジション・ファイナンス(炭素排出型産業部門が脱・低炭素化を進めていく移行取組みへの投融資)への言及もなされた。議論が多岐にわたることから、短期と中長期の議題を分けて議論すべきであるとの見解が多数のメンバーから出されたため、今後の議論のあり方に反映されると見られる。
なお、同有識者会議の傘下に設置されることが決まったソーシャルボンド検討会議では、世界的な原則に沿って、日本企業が使いやすい実務指針の策定を目指すとしている。
2021/2/15 不動産経済ファンドレビュー