活況呈する不動産投資市場の中で―ファンドマネージャーミーティングを開催
不動産経済ファンドレビュー

(提供:不動産経済ファンドレビュー)ファンドレビュー編集部は、東京・大手町で「リアルエステート☓リアルアセット ファンドマネージャーミーティング」を開催した。AM関係者、金融機関関係者などが集まり、活発な意見交換、情報交換がなされた。冒頭、行われた鼎談では不動産投資マーケットの足元と課題などが示され、出席者の関心を寄せた。概要をレポートする。

オフィスは競争力ある物件に根強い需要ある
レジは賃料上昇期待も商業施設はセレクティブ

 冒頭では「コロナ禍を経て求められる視点とは」と題した鼎談を開催。宰田哲男 タカラPAG不動産投資顧問代表取締役社長、林大介 フェニックス・プロパティ・インベスターズジャパン・リミテッド日本代表、大久保寛 シービーアールイー リサーチマネージングディレクターが登壇し、どのような視点でマーケットを俯瞰し、どのような投資戦略を描いているのかなどが示された。
 足元の日本の不動産投資マーケットについて、大久保氏は、「海外投資家と会う機会が多いが、毎回、日本の不動産投資マーケットは相変わらず活況を呈していると話している」と紹介。2020年、世界全体の事業用不動産の投資総額は前年と比べて2割減ったが、日本においてはプラス10%だったこと、2022年もコロナ前と比べて投資総額が減っていないことが背景にある。また、投資をする中身を見ても、相変わらずオフィスが半分以上を占め、1番大きなシェアを占めている。大久保氏は「2020年はオフィス需要がなくなる心配もあったが、ふたを開けてみると、皆オフィスを買っている」とし、「ただ、昨年の秋から米系の投資家を中心に、少し選別的になってきた」ことから「今年に入ってからアセットタイプ別に見た時に、少し皆の志向が変わってきている印象を受ける」と見る。
 宰田氏は「コロナが始まってオフィスは一時はどうなるかといったコンセンサス的な不安があったが、日本はコミュニケーションをとるための場としてオフィスは必要」と指摘。「コロナ前からそうだったが、優秀な人材の確保と定着は1番大切なので、オフィス環境をもっと良くしようとしている。相対的に、日本は海外と比べてオフィスは心配しなくていい。ただ、東京は2023年と2025年に大量供給があり、需要が減っているわけではないが、供給過多の中でリーシングが難しい。こうした環境でも競争力のある物件に対して需要は根深くある」と見る。
 林氏は日本におけるオフィス投資の姿勢を紹介。フェニックスはオポファンドとコアプラスファンドを運用しており、「往々にしてアセットがアンダーマネージしている物件をオフマーケットで安く取得してリターンを作っている」と紹介。「物件としてきちんと管理されておらず、例えばロビースペースがくたびれていたりなど、アップグレードして物件バリューを上げていく」とし、「こうした物件は、継続賃料がマーケット賃料よりかなり安いので、物件をきれいにして交渉すると、高い確率でレントを上げられる経験があり、そうしたアンダーライティングをしてうまくいっている」とした。また投資するオフィスは東京のBクラスで20~30年経たような、しかし立地の良いビル、あるいは、地方都市は積極的にいろいろなものを見ており、札幌での成功事例を紹介した。
 大久保氏は、オフィス賃料の見通しについて「東京についてはあと2~3年かけて10%程度は落ちる」と予想するものの、空室率は2四半期連続で下がっていることから「間違いなくテナントは動いている。よりよいビル、立地に移りたいというモチベーションで動いており、実際に新たに成約した面積、ボリュームで見ると、2018年からデータをとっているが、調査を開始以来、第1四半期は最大規模だった。それくらい動いている」と明るい見通しを示した。
 レジについて大久保氏は、CBREが昨年末に行ったアンケート調査で、世界21カ国中、日本が賃貸志向が1番高いことを紹介。投資案件として「賃料が安定しているものの、上がらないアセットというイメージを持たれていたが、ここ数年は上がっている」と見る。宰田氏は「コロナを迎えて傾向が変わり、都心の立地よりも少し郊外の広めのところに移る人が増える中で、競争力のある物件は確実に賃料が上げられている」と追認。「現時点では競争力があれば上げられる、今までの日本の住宅に対する常識は変わってきた」とした。また、「安い賃料の部屋が空くと、もう少し良い条件で貸せるということが現実に起きているので、そうすると、入れ替わりがそれほどないにしても当該物件一棟で年間1~2%は上げられる住宅が増えている」。
 商業施設は、国内の消費が回復している中に、インバウンド需要がさらに加わって、銀座のハイストリートでも賃料が上がっている状況にある。林氏は「商業は一番セレクティブ、やっているのは駅前商業施設。確実なテナントとそこに来るニーズのあるような案件しかやっていない。ハイストリートリテールも儲かりそうと思いつつ、海外の投資家はダメ。よほどの案件でないと、説明が難しい」とする。宰田氏も「いわゆるGMSから都市型までいろいろな案件を見てきたがポテンシャルのある物件に関しては、テナントの状況とは関係なくいい値段が付く売買マーケットの状況なので、物件を手放してキャピタルゲインをとったものもある」とし、「賃料が上がるだけではなく、賃料を下げないことも内部成長の1つと言えるので、そういう案件を中心に買っていく」との方針を示した。

物流施設はCF安定し需要自体は堅調
ライフサイエンスとデータセンターに活路

 一方、コロナ禍を通して一気に関心が高まったのが物流施設。ここ1年で空室率は上昇基調にあるとはいえ、大久保氏は「新たに竣工した物件の多くが空室を残して竣工していることが要因」と見る。しかし、「過去12カ月で新たに竣工した分の空室を取り除くと空室率は2%にとどまっている。基本的に全体でみるとマーケット賃料も下がっていない。キャッシュフローが安定したアセットタイプという特性は損なわれていない」とした。林氏は「全国津々浦々で、開発かフォワードコミットメントで手掛けている。開発した時のイールドと出口のイールドが100~200bpのスプレッドがあるような案件を手掛け、5000坪~2万坪のゾーンで勝負している」。また、「全ストックに対するモダンロジスティクスの比率が非常に低い。だから新しいものを作ると、サプライがディマンドを生むような世界があって、そういう意味ではまだまだやれる」と強調した。宰田氏は「需要自体は堅調だと思っているし、供給過剰のきらいはあるものの、優良な物件、競争力のある物件は必ずあって、それについては投資するにはやぶさかではない」と評価。「ただ全体の値段が上がる中で、選別しながらという考え方をしたい」とした。
 投資アセットの多様化にも話はおよび、新たな投資アセットとして示されたのがライフサイエンス。林氏は「外人投資家は必ず言ってくる。海外では完全に確立されたアセットクラスだ。日本でも一部の投資家がそれをうたってやっているが、これからは増えてくる」と見通す。
 宰田氏はアセットクラスが拡大してきた中で、証券化黎明期を振り返り、「2000年にオフィスと住宅を対象とした私募ファンドをやろうとしたときに、投資家からは、オフィスはいいが、本当に住宅をやるのかと当時言われた。確かに良質な賃貸住宅は日本には多くはなかった。しかるべく作り始めた頃なので、それが今や投資アセットとして住宅がオフィスを凌駕している。こうした変遷がある中で投資アセットの多様化が進んでいく」とした。商業施設やホテルなどオペレーショナルアセットも同様で、新たな視点として「データセンターは1つのカテゴリーとして確立されつつある。需要は倉庫と同様伸びるので着目していきたい。ESGやSDGsなど、社会的貢献で言うと、シニアに関する物件をきちんと投資対象として見たい」との考えを示した。

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