家賃支援給付金制度(4)―Withコロナの不動産運用ビジネス―  森・濱田松本法律事務所 弁護士 佐伯優仁

(家賃支援給付金制度(3)―Withコロナの不動産運用ビジネス―より続き)

実務上の対応*1

(1)申請のタイミング
 不動産を賃借するテナントは、自らが家賃支援給付金を受け取る条件を満たすのか確認した方がよく、不動産を賃貸するオーナーは、テナントが当該条件を満たすのか、当該テナントに確認することが考えられる。その上で、条件を満たす場合はテナントは給付金の受領を申請することを検討すべきであろうし、オーナーはテナントによる申請に際して、書面作成や情報提供等の面で協力し、誠実に対応すべきである。
 ただし、申請のタイミングによっては給付額が変わり得るため、どのタイミングで申請すべきかはよく検討する必要がある。給付金を受け取れる条件を満たすテナントは、2021年1月15日までの期間いつでも申請をすることができ、タイミングは自由に決められるが、1度しか受け取ることはできない。そして、給付額が、原則として申請日の直前1カ月以内に実際に支払った月額の賃料であることからすると、申請期間中最も高額の賃料を支払った直後のタイミングで申請すれば、基準月額賃料が高くなるので、より高額の給付額を受け取れる可能性がある。たとえば、売上連動賃料を設定している場合、毎月支払う賃料額は異なるところ、新型コロナウイルス感染症の影響による売上げの低下が2020年後半にかけて回復することが予想される場合、ある程度回復した売上げを基準とした賃料を支払った後の方が給付額が高額となる可能性がある。ただし、この場合でも、2020年3月に賃料として支払った金額が上限となるため、たとえ申請期間中にそれよりも高額の賃料を支払ったとしても基準月額賃料は当該3月の賃料として支払った金額となることには注意が必要である。
 さらに、商業施設や宿泊施設の場合、現時点で一時的な賃料の減免や支払猶予の合意をしている場合も多いと思われるが、そのような場合にも申請のタイミングは留意が必要だ。まず、繰り返し述べているとおり、給付額が、原則として申請日の直前1カ月以内に実際に支払った月額の賃料であるところ、一時的な賃料の減免や支払猶予が行われている間は、支払っている賃料がないか、あるとしても通常の賃料の額より低い額となっている。そうすると、そのタイミングで申請しても給付金を受け取れないか、本来の賃料額に見合った給付金額を受け取れない可能性がある。これに関して申請要領でも、「直前で支払いの猶予を受けている月や値下げまたは免除を受けている時に、家賃支援給付金を申請する必要はなく、元の水準の賃料に戻った時に元の水準で賃料を支払い、申請を行えば、元の賃料の水準を対象として給付金を受け取ることができます」と記載されている。したがって、申請期間満了日の2021年1月15日までには賃料の減免や支払猶予をやめて、本来の月額賃料を支払った上でその後に申請を行った方がよいであろう。なお、前記のとおり、原則として申請日より直前3カ月間の賃料支払実績がないと給付を受け取れないが、賃料支払いの猶予や免除をしている場合は、最低でも申請日から1カ月以内に1月分は賃料を支払っていれば、特例的に給付金を受け取れる。
 上記をふまえると、給付金を受け取れる条件を満たすテナントがオーナーとの間で既に現時点で一時的な賃料の減免や支払猶予の合意をしている場合は、少なくとも申請期間満了までに当該減免又は猶予をとりやめて、本来の月額の賃料を支払う機会を確保するよう、必要な合意書等を締結したり、あるいはたとえば毎月減免又は猶予の合意を延長している場合はそれを継続せずにやめたりするアレンジが必要となる。
 いずれにせよ、今後オーナーとテナント間で締結する合意書等の書面においては、「本契約当事者は、本契約当事者に適用がある、新型コロナウイルス感染症の影響を契機とした、国、地方公共団体その他の公的又は私的な助成・支援制度(家賃支援給付金制度を含む)を最大限活用するよう努めるものとし、他の当事者が当該制度を活用する場合には、それに最大限協力する。」といった規定を設けておくことも検討に値する。

(2)マスターリース
 前記のとおり、土地・建物を賃借したもののそれを自らの事業に活用せず転貸する者は給付金を受け取れない。したがって、建物を一度マスターレッシー(賃借人兼転貸人)に一棟貸しして、マスターレッシーが各テナントに転貸するようなケースでは、各テナントは給付金を受け取れるが、マスターレッシーは受け取れない。これは、マスターレッシーが各テナントから受領した賃料の合計額と同額をオーナーにマスターリース契約の賃料として支払ういわゆるパス・スルー型マスターリースの場合に限らず、マスターレッシーが各テナントから受け取る賃料額にかかわらず固定額の賃料をオーナーに支払ういわゆる固定型マスターリースの場合も同様と考えられる*2。
 オーナーは各テナントと直接契約関係にはなく、また、各テナントが給付金を受け取る場合の賃貸人への通知もあくまでマスターレッシー又は管理会社になされるのみで、オーナーにはなされない。したがって、オーナーは、マスターレッシーを通じて各テナントによる給付金受領に関する対応を行うことになる。
(完)
*1ここでは、あくまで国の家賃支援給付金制度のみを念頭において議論しており、地方公共団体等から同趣旨の支援金を並行して受領する場合はまた別途の考慮が必要となる可能性もある。
*2もっとも、マスターレッシーが自己使用する区画がある場合は、その部分の割合に換算した賃料を基準に算定した給付額を受け取ることができる。

2020/12/2 不動産経済FAX-LINE

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