南海トラフ地震も視野に、底上げ続ける
東日本大震災の経験を生かし、今後予見される南海トラフ地震や首都直下地震に対する適切で実践的な備えを構築していく上で、有事の際に応急仮設住宅を供給する住宅業界団体の役割は大きい。10年間で確かな進展があったが、現在進行形の案件として中長期的に取り組んでいくべき課題も多い。
プレハブ建築協会は、東日本大震災で約4万3000戸の応急仮設住宅を供給した。当時の教訓を元にこの10年間で応急仮設住宅の仕様などは変化してきた。自治体との連携を大幅に向上させるなどして次の災害に備えている。
当時は被災地の実情から、応急仮設住宅の断熱性能の不足が明らかとなり追加の断熱改修を要した。そのため寒冷地向けのオプション仕様を新たに追加。18年の北海道胆振東部地震災害では約200戸の応急仮設住宅を供給しており、住宅の気密性を高め、FF式ストーブの利用を可能とし、凍結対策で給湯器も屋内に設置した寒冷地向け仕様を展開した。同年の平成30年7月豪雨災害から、入居者のニーズを踏まえて車いす対応モデルも投入。19年には宮城県の東日本台風被災地に23戸を供給した。
このほか災害対応のマニュアルの更新・人材育成を進めている。現在は東日本大震災を経験した担当者がいるものの、将来は担当者全員が初の災害対応となる状況で当たることを念頭に置く。そのための行動マニュアルは被災当日の対応、翌日の対応と1日単位でのシミュレーションに基づく極めて実践的な内容だ。東京都に本部を置き現地建設本部が前線に立つ設定。現地本部となる建物は各地に確保しなければならない。加えて応急仮設住宅の配置計画策定などの訓練を平時から強化するほか、新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた仕様の検討も急務だ。
大規模災害時における被災者への住まいの確保に関する課題の一つが、平時からの社会的備蓄の確立。応急仮設住宅への入居には建設開始から1カ月程度必要で、東日本大震災で生じたように当初の建設予定地が使用不能となる事案もあり得る。応急仮設住宅入居前の仮居住施設として、平時からのストックが可能な移動式住宅などが候補に挙がる。応急仮設住宅の建設期間の短縮にはBIMの活用も有効。現状では研究・試行段階にあるが、建設現場の人手不足への備えも兼ねた省人化の観点からも必須とみる。前提となる予定地の確保は主に各自治体の領分だが、プレハブ建築協会も意見照会に応え知見を提供することで可能な限り協力している。最大12府県に応急仮設住宅の建設が及ぶともされる南海トラフ地震などを想定すると、自治体の垣根を越えた広域連携が必要だ。
木住協、応急仮設建設協定は17都府県に
このほか自治体との連携の点では、日本木造住宅産業協会が全都道府県との災害救助法に規定する応急仮設住宅の建設協定締結を目指しており、一定の成果を得た。13年から20年までに静岡県、福岡県、熊本県、和歌山県、神奈川県、山形県、大阪府、愛媛県、岐阜県、徳島県、高知県、香川県、三重県、東京都、佐賀県、長崎県、愛知県の計17都府県と締結。沖縄県を除く残りの道府県も訪問・説明済みで、順次協議・締結と進めていく方針。有事の際は県からの要請に応じて、木造応急仮設住宅の供給で会員企業のあっせんなどを行う。(日刊不動産経済通信)