コロナ禍で商業施設の浮き沈みが鮮明になってきた。高級ブランドの路面店や服飾品が主体のファッションビルなどは苦境が続く一方、食品や日用雑貨を売る多くの郊外型店舗は盛況だ。立地や業態、経営戦略などにより業績はまだら模様だが、人々の働き方と消費行動が変わりつつあり、小売り事業者や投資家らは戦略の見直しを迫られている。
クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド(C&W)の調査によると、今年第3四半期(3Q)に東京・銀座と新宿の路面店賃料は前年同期に比べ5~6%程度下がったが、表参道と渋谷は横ばいを保った。年初以降に訪日外国人客が急減し、外需への依存度が高かった銀座と新宿で賃料の下落圧力が強まった結果だ。CBREの調査結果では銀座の賃料は横ばいが続くが、業績不振で撤退するテナントが増加。表参道・原宿の賃料は前期比9・1%減と1割近く下降した。
都心やその周辺では訪日客の需要に支えられてきた高級ブランド店やドラッグストアなどがコロナ禍で痛手を負った。テレワークの普及で繁華街の人出が減った上、人混みを避けオンラインや郊外の自宅付近で買い物を済ませる消費者が増え、都市型商業施設の客離れが加速した。鉄道利用者も減り、本業以外に駅ビルなどの不動産事業を展開する鉄道各社に打撃となった。先月には東日本旅客鉄道(JR東日本)が傘下のエキナカ事業4社を来春に統合する方針を表明。地方でも名古屋鉄道(名鉄)が名古屋駅、JR西日本が三宮駅の一帯で計画していた大規模複合開発の再考を始めた。C&Wのリテールサービス部門を統括する須賀勲エグゼクティブ・ディレクターは「都市部ではアパレルの路面店や百貨店の閉店・廃業が今後さらに増え、店舗賃料も超一等地を除き低下基調になりそうだ」と指摘。衣料系ショッピングセンターなどの業態転換が加速し、EC市場の拡大にも弾みが付くと展望する。
小売業の窮状は商業系リート各社の運用報告にも表れている。ケネディクス商業リート投資法人は2月から9月にかけて全496テナントの約4割となる196件から賃料の減額要請を受けた。飲食や衣料系からの要請が多く、10月までに賃料減額95件、支払い猶予2件、現状維持96件などで決着した。同社は収益が落ちた東京・代官山のファッションビルを売却する方針を決定。今後は手堅い需要が期待できる生活密着型の商業施設に重点投資する方向へと舵を切る。
日本リテールファンド投資法人には8月までにテナントの約7割から賃料減額の相談が寄せられ、減額7割、ゼロ回答2割などで合意した。ポートフォリオの5割超が都市型、2割が郊外型の商業施設だが、郊外駅前の食料品スーパーなどの集客状況が良く、8月時点で全体の平均売上高は前年比85%まで戻った。ただ商業偏重型の運用はコロナ下ではリスクが高い。同社は来年3月にMCUBS MidCity投資法人と合併し、資産規模1兆円を超える国内最大規模の総合型リートに生まれ変わる予定だ。
大規模な多機能店舗の出店検討者が増加
都市部の出店需要は減少傾向だが、退去を踏みとどまるケースもある。CBREリテールサービス本部の奥村眞史シニアディレクター本部長は「特にプライムエリアの路面店舗は一度退去してしまうと再出店のハードルが上がるため、感染が収まるまで耐えるというテナントが多い」と話す。奥村氏によると、Eコマース(EC)の拡大に伴い、貴重な対面営業の機会を確保しようと実店舗を構える動きも活発になっている。このため都市部では店舗の空室が増えている割に賃料は下がっていないという。将来的に少しでも高値でビルを売却しようと、賃料を下げずあえて空室にしておく選択肢を取るオーナーが多いことも値崩れの抑止力になっている模様だ。一方でテナントをつなぎ留めるために賃料を下げる貸し手も増えているといい、コロナの影響と店舗の価値をどう見積もるかで需給のパワー・バランスが決まると言えそうだ。
EC市場拡大や郊外型モールの増加など、コロナの流行以前から小売りの環境は大きく変わっていた。実店舗は顧客に商品を体験してもらい、購買につなげるための接点の1つと位置付けるテナントが増加。実店舗の売り上げから賃料を負担するという事業モデルは変わりつつある。奥村氏は「店舗数を減らすとともに、集客イベントと物販を両立できる大規模な多機能店舗の出店を検討する事業者が増えている」と指摘する。
商業モールの開発やリーシングに強みを持つJLLモールマネジメントの大津武会長も「コロナ禍でECが急拡大し、戦略的に実店舗の比率を下げるのがリテーラーの共通認識になった」と分析し、「自社で約6000店のテナント候補リストを持っているが、その多くが新規出店を考えていない状態だ」と危機感をあらわにする。
ただ同時に「廃業した百貨店の改修や商業モールへの転向を受注する機会が増えていて、当社にとって大きな商機だ」と先行きに期待。小売り業ではECサイトを拡充したり実店舗とECを絡めたりする手法が普及しているが、商品の良さを消費者の五感に訴えられる実店舗の優位性を理解する事業者も多く、施設の機能や売り方などを工夫して収益性向上を狙う動きも活発だという。景気悪化に伴い都市部で閉店や業態転換などが急増する可能性もある。同社は施設改修や経営コンサルなどのテナント支援を手厚くすることで、売り手と買い手双方の需要に応える方針だ。
日刊不動産経済通信